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新宝岛-日の丸

时间: 2021-10-16    进入日语论坛
核心提示:日の丸 一人洞窟の中に残った哲雄君は、何を思ったのか、難破船から持ちかえった双眼鏡を手にとって、しばらく考えていましたが
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日の丸


 一人洞窟の中に残った哲雄君は、何を思ったのか、難破船から持ちかえった双眼鏡を手にとって、しばらく考えていましたが、やがて、
「双眼鏡もだいじだけれど、ナアニかまわないや。片方の筒だけこわしたって、もう一つの方で見られるんだから」
 と、ひとりごとをいいながら、何か決心した様子で、そこにあった料理用のナイフをとると、いきなり双眼鏡の片方の筒をこわしはじめました。哲雄君はそんな乱暴なまねをして、いったい何をしようというのでしょう。
 しかし、こわすといっても、たたきつぶすのではなくて、まるで機械を分解するように、金具やレンズになるべく傷をつけないように、ときほごして行くのですから、なかなかめんどうな仕事で、一方の筒がバラバラになるまでには、三十分あまりもかかりました。
 哲雄君は、そうしてときほごした筒の中から、一枚の(とつ)レンズをえり出して、それを大切そうに手ににぎり、洞窟の外へ出て行きました。
 洞窟の近くの砂浜には、午前の日光がまぶしく照りつけています。哲雄君は、きのう野蛮人のやり方で火を作ろうとした時に使った、枯草や木のけずりくずなどを拾って、ギラギラと白く光っている砂の上の一ところに集めました。
 読者諸君、哲雄君はそれからどんなことをしたと思いますか。もうおわかりでしょう。そうです。哲雄君はその枯草の上に、双眼鏡から取出して来た凸レンズをかざして、太陽の光が、枯草のまん中に焦点をむすぶようにして、そのまましんぼうづよく、じっと手を動かさないでいたのです。
 読者諸君は、凸レンズを太陽にあてれば、その焦点が物を焼く力のあることを、よくごぞんじでしょう。かしこい哲雄君は、あの理科の知識を応用して、火を燃やすことを考えついたのでした。
 間もなく、枯草はチリチリと黒くこげて、うすい煙を立てはじめました。哲雄君は一生けんめいになって、じっと焦点をあわせています。そうして一分間ほども、しんぼうづよく、同じところをこがしていますと、とうとうその黒こげの中から、チラッと小さな(ほのお)が燃え上りました。
「しめた!」
 哲雄君は思わず叫びました。その小さな焔は、見る見るひろがって行くのです。枯草はもう一面の火となって燃えはじめました。
 哲雄君は大急ぎで、そのへんに落ちている木のけずりくずを拾い集めては、枯草の上にソッとのせて行きます。きのうオールをつくった時のけずりくずが、たくさんあるのですから、火さえつければ、あとはもうしめたものです。
 あの小さなレンズの焦点でつくった火が、今はもう大きな焚火になって、パチパチと木のはぜる音と共に、白い煙がいせいよく空に立ちのぼっています。
 そうして、火をたやさないように注意しながら、三十分ほども待っていますと、うしろの森の方から、保君の元気な声がひびいて来ました。
「ワーッ、燃えてる燃えてる。哲雄君バンザイ。僕たちもどっさりおみやげがあるよ。きれいな小川を見つけたんだよ。つめたくてとてもおいしい水だよ。君も早く行って飲んで来るといいや。それからね、まだおみやげがあるよ。一郎君が大きな鹿を射とめたのさ」
 つづけざまにしゃべりながら、おどるようにして近づいて来ましたが、焚火の前に立つと、めずらしそうに、燃えさかる木くずに見入って、又よろこびの叫声をあげるのでした。
 一郎君も銃を肩にして帰って来ました。ポパイも小川の水をたらふく飲んだせいか、おそろしく元気になって、そのへんをうれしそうにかけまわっています。
 読者諸君、さて、それから何がはじまったと思います? 三人の少年は、にわかにコックさんに早がわりをしたのです。一人がバケツをさげて小川へ水くみに走れば、一人は土をつんで不恰好な(かまど)をきずき上げる。一人が大鍋にお米と水を入れてガシャガシャかきまわせば、一人は出来たばかりの竃の下へ枯枝をつみ重ねて燃やしつける。
 一方では又、一郎君の射とめた鹿の肉を切りとって、それを木の枝をけずった(くし)にさして、焚火の上であぶりはじめる。それもだまってやっているのではありません。皆が校歌を合唱したり、じょうだんをいいあったり、笑ったり、叫んだり、そのさわがしさは一通りではありません。
 そうしてやっとごちそうが出来上って、鹿の焼肉にソースをかけて、湯気の立つ白いごはんを食べた時のおいしさ。ごはんはなんだかあまりうまく()けていなかったようですが、でも、三人はそのおいしさが一生涯わすれられないほどでした。むろんポパイも、たらふくごちそうになったことはいうまでもありません。
 食事がすんだ時には、あまりたくさんつめこんだので、三人とももう動くのもいやになって、ちょうど午後の日ざかりでもあり、しばらく涼しい洞窟の中でやすむことにしました。
 そうしてゆっくりくつろぎながら、又いろいろと今後のことを相談したのですが、その時一郎君が一つの名案を考えつきました。
「このテーブル掛の白麻で、国旗をつくろうじゃないか。そして、僕たちのけずったオールにむすびつけて、あの岩山のてっぺんに立てるんだよ。そうすれば、遠くを通る船にだって、国旗が見えるにちがいないよ。ここに日本人がいるというしるしなのさ。こんな無人島に日本の旗が立っているなんておかしいと思って、きっとボートをこぎつけて調べるよ。そうすれば、僕たちは助かるじゃないか」
「ウン、それはいい考えだね。この海を汽船が通るかどうかわからないけど、万一通った時に、気づかないで行きすぎてしまったら、残念だからね」
 哲雄君が大人らしい口調で賛成しました。
「僕もさんせい。それに、僕たちはこの島の王様なのに、国旗がなくっちゃおかしいからね」
 保君は保君らしい意見をはきましたが、ふと気づいたように、
「だって、国旗っていえば、日の丸なんだろう。こんな真白なテーブル掛じゃ変じゃないか」
「むろん、日の丸をかくのさ」
「絵の具は?」
「オヤ、君は忘れたのかい。難破船から赤インキの壺を持って来たじゃないか」
「ア、そうか。でも、筆がないぜ」
「筆はつくるのさ」
 一郎君はそういって、手製の筆のつくり方を説明しました。それは筆ぐらいの太さの木の枝を切って、その先をナイフでメチャメチャに切りさいた上、そこを石でたたいて、刷毛(はけ)のようにする方法です。
 一休みしたあとで、一郎君が木の枝を切って来て、その手製の筆をつくりあげました。()き役は手先の器用な哲雄君です。まずテーブル掛を手頃の国旗の大きさに切って、その真中にありたけの赤インキを使って、みごとに日の丸をかきあげました。
 そして、頂上の岩のさけ目にオールを立て、倒れないように三方から木の棒でささえをしたのです。
 この仕事では、木登の上手な保君が、岩山をのぼったりおりたりして、一番よく働きましたが、最後には、ポパイにも国旗をおがませてやるのだといって、犬をだいて岩山をよじのぼるのでした。
 インキの色も生々しい日の丸の国旗は、オールの旗竿の上で、ヒラヒラと風になびいています。青々とした大空を背景に、真白な白麻、真赤な日の丸、なんともいえぬ美しさです。
 少年達はそれを見ているうちに、いつともなく、胸の底から「万歳」という声が湧き上って来ました。両手が思わず空にあがりました。そして、声をそろえて、いくどもいくども、「バンザーイ、バンザーイ」とくりかえすのでした。ポパイもうれしそうに尾をふって、妙な声で吠えたてました。それらの声が一つになって、はてしもない大海原の上をただよい、はるかの沖合へ消えて行くのです。
 その日は朝からうれしいことばかりで、少年達は不幸のうちにも仕合せな一日を送りましたが、この喜びがいつまでつづくことでしょう。にぎやかな日のあとには、前にもましてさびしい日が来るのです。そして、少年達の行手には、ある恐しい運命がまちかまえているのです。ほんとうの冐険がこれからはじまるのです。

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