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新宝岛-大黑暗

时间: 2021-10-17    进入日语论坛
核心提示:大暗黒 みなさん、少年たちは火の柱に焼かれてしまったのでしょうか。いやいや、そうではなかったのです。勇敢な一郎君の、はた
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大暗黒


 みなさん、少年たちは火の柱に焼かれてしまったのでしょうか。いやいや、そうではなかったのです。勇敢な一郎君の、はたらきが、功を奏して、筏は火の柱からずっとはなれた、洞窟のすみを通りすぎたのです。
 あまりの熱さ苦しさに、三人が三人とも気を失ってしまいましたけれど、けっして焼死はしなかったのです。筏は気絶した三少年を乗せて、たちまち火の柱をあとにし、非常な早さで、その恐しい地獄を遠ざかって行ったのです。
 それから、どれほどの時がたったのか、少年たちは誰も知りませんでしたが、まず最初に気をとりもどしたのは、一番からだの丈夫な一郎君でした。
 フッと目を開いて、あたりを見まわしましたが、そこには何もありませんでした。ただ一面の墨を流したような闇ばかりです。
「おや、僕はもう死んでしまったのかしら?」
 一郎君がそう思ったのもむりはありません。そこには何の物音もなく、何の動くものもなく、つめたい闇が、墓場の底のように静まりかえっていたのです。さっきまでの、目もくらむ光や、恐しい物音にくらべて、何というちがいでしょう。
 でも、死んでいない証拠には、さわってみると、からだの下に、筏の材木がありました。ちょっと手をのばすと、筏の外には氷のように冷たい水がありました。しかし、ふしぎなことには、その水が少しも流れていないのです。まるで古沼かなんぞのように、不気味に静まりかえっているのです。
 水があるとわかると、一郎君はすぐその方へ首をのばして、まるで犬が水を飲むように、その黒い冷たい水を、思うさま飲みました。それほどのどがかわいていたのです。
 そうして、やっと人心地がつきますと、はだかになっているからだ中がひりひりと痛むのに気づきました。直接火の柱にさわったわけではありませんけれど、そのそばを通ったので、やけどをしていたのです。
 そこで、手で水をすくっては、からだの痛むところをぬらしましたが、だんだん気持がハッキリして来るにつれて、心配になるのは保君と哲雄君のことでした。
「保君……哲雄君……」
 一郎君は闇の中へ声をかけながら、筏の上をはって、手さぐりをしました。すると、ちょうどその時、保君が正気にかえって、身動きしているのにぶっつかりました。
 つづいて、哲雄君も正気づいた様子なので、一郎君は、まず何よりも、二人に水を飲むことをすすめました。
 二人が筏のはじへ這って行って、たらふく水を飲み、やけどの手あてなどをしたあとで、三人は、お互の顔も見えぬ闇の中で、手を取りあって、命の助ったことを喜びあいました。
「よかったねえ。でも、どうして助かったんだろう。僕はもう焼け死ぬものと覚悟をきめていたんだよ」
 哲雄君が不思議そうにいいました。
 一郎君は自慢にならないように注意しながら、板で水を掻いて、筏を火の柱から遠ざけたことを語りました。
「ああ、そうだったの。じゃ、君が助けてくれたんだねえ。君は僕たち二人の命の恩人なんだねえ」
 哲雄君はしっかり一郎君の手をにぎって、感謝にたえないようにいうのでした。
「ありがとう、一郎君。僕も君に助けてもらったんだねえ」
 ちゃめの保君も、いつになくしんみりといって、一郎君の手をにぎりました。
 そうして、しばらくの間、三人は涙ぐみながら、お互の手をにぎり合っていましたが、やがて、三人とも、寒くてたまらないことに気がつきました。
 ほんとうに、そのくら闇の世界は、何から何まで、さいぜんの火の柱のそばとは、あべこべだったのです。温度までも、熱帯からいきなり寒帯に来たほど、ちがっているのです。
 三人は、寒い寒いといいながら、手さぐりで、さいぜんぬぎすてたシャツとズボンをさがし、いそいでそれを着こみましたが、それでもまだ寒くてたまりません。そこで、筏につんであったシーツの白布をさがして、てんでにそれをシャツの上からぐるぐるとまきつけ、やっといくらか寒さをしのぐことが出来ました。
「君たち、お腹がすきやしない? 僕はぺこぺこだよ」
 大ばたらきをした一郎君が、第一に空腹をうったえました。
「うん、僕もだよ。箱の中に食料が入れてあったね。あれをたべようよ」
 保君がさっそく賛成しました。
 そこで、三人は又手さぐりで、筏につんである木箱のそばにより、その中の鳥のあぶり肉だとか、パンの木の実だとかを取出して、たらふくつめこみました。
「ああ、おいしかった。まだたくさん残っているね。あと五日分ぐらい大丈夫あるよ」
 たべることにかけては、保君が一番ぬけ目がありません。手さぐりで、箱の中の食料をちゃんと計算していたのです。
 みんなお腹がくちくなると、しばらくはだまりこんでいましたが、そうしていますと、くら闇というもののこわさが、だんだん心の中にひろがって来るのでした。
「何だかへんだねえ。ここはどこなんだろう。どうしてこんなに静かなんだろう」
 まず保君が、たまりかねたように口をきりました。
「やっぱり洞穴の中だよ。もし穴の外にいるんだったら、いくら夜でも、かすかに何か見えるはずだからね」
 哲雄君が考え深い調子で答えます。
「じゃ、どうしてこんなに水が動かないんだろう。まるで沼みたいじゃないか」
「それは、ここがちょうど(ふち)のようになっているんだよ。川にだって、ちっとも水の流れない淵というものがあるだろう。あれだよ。ここは洞穴の中の淵にちがいないよ」
「まっ暗でわからないけれど、ここは広いのだろうか」
「どうも広そうだよ。僕はさっきから、銃を持って、岩にあたらないかと思って、さぐってみたんだけど、どこにもさわるものがないんだよ」
 これは一郎君の声でした。
「あ、いいことがある。僕何か投げて、ためしてみるよ」
 保君はそういったかと思うと、木箱のそばの鍋の中に入れてあった一枚の皿を取って、いきなり闇をめがけて投げつけました。
 きっと岩にあたってくだける音がすると思ったのですが、そんなけはいはなくて、しばらくしてから、はるか向こうの方で、ドボンと水のはねる音がしました。
「よし、それじゃ、こっちの方だ」
 と、又別の皿を取って、反対の方角へ投げましたが、今度も同じように水音がするばかりでした。
「ワア、広いんだなあ!」
 保君は思わず大きな声でさけびました。すると、どこか遠くの遠くの方から、かすかな声で、
「ワア、広いんだなあ!」
 と、誰かがさけび返しました。
 ちょっと考えれば、それはこだまだということがわかるのですが、お互の顔も見えない、まっくら闇の中ですから、向こうに誰かいるような気がして、何だかこわくなって来ました。
 ためしに、大きな声で「オーイ」と呼んでみますと、ワーンとうなるような音で、どこからか「オーイ」と答えて来ました。そして、しばらくすると、ずっと向こうの方から、最初のよりは小さな声で「オーイ」と聞え、それから又もっとかすかな声が、遠くの遠くの方から「オーイ」とひびいて来ました。反響が反響を生んで、一つの声が二重三重にこだまするのです。
「広いんだねえ」
 一郎君が、こだまにこりて、ささやくような声でいいました。
「とても、広そうだねえ」
「僕たち、いつになったら、ここを出られるんだろう」
 保君は心ぼそい声を出しました。
「このままじっとしていたら、いつまでたっても出られないわけだよ。水がちっとも流れていないんだもの」
 哲雄君もおびえたような声です。
「じゃ、僕たちで筏を漕いでみようじゃないか。どっちへ行っていいのかわからないけれど、ともかく漕いでいれば、どこかへ出るよ。じっとしているよりはましだよ」
 一郎君が二人を元気づけるようにいいました。
「漕ぐといって、櫂を流してしまったじゃないか。漕ぐものがないよ」
「なくはないさ。ホラさっき僕は箱の蓋で水を掻いたっていったろう。その蓋の板は流してしまったけれど、まだ箱がのこっているよ。あれをこわして、その板で漕げばいいんだ。早くは進まないけれど、一生懸命に漕げば、どっかへ出られるかも知れないじゃないか」
「あ、そうだね。じゃ、やってみようか」
 そこで、少年たちは食料のはいっている木箱をこわして、手ごろの二枚の板をつくり、一人ずつ筏の両はじにすわって、その板で水を掻きはじめました。
 まっくら闇の中ですから、筏が進んでいるのかどうか、すこしもわかりません。いくら水を掻いても、同じ所にいるような気さえします。なんという心ぼそい仕事でしょう。
 でも少年たちは、代りあって、いつまでも根気よく、板の櫂をあやつりました。そうするほかに、この恐しい洞窟をぬけ出す道がないことが、よくわかっていたからです。
 しかし、漕いでも漕いでも、行手にはかすかな光さえ見えませんでした。どこまで行っても闇なのです。果しもない、大きな大きな闇の世界なのです。
 漕いでいるうちに、腹がへって来ますので、三人は代りあって、食事をしました。その食事がもう二度もくりかえされたのです。時計がないので、よくはわかりませんけれど、漕ぎだしてから、たっぷり半日以上もたったように思われます。それでも、あたりには少しの変りもありません。やっぱり幾重にも幾重にも重なった闇が、三人をしっかりと包んでいるのです。

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