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新宝岛-是星星!是星星!

时间: 2021-10-17    进入日语论坛
核心提示:星だ! 星だ! みなさん、もし私たちに目というものが無かったら、世の中が、どんなに淋しく、たよりないものでしょう。世界中
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星だ! 星だ!


 みなさん、もし私たちに目というものが無かったら、世の中が、どんなに淋しく、たよりないものでしょう。世界中がかぎりもない真暗闇なのです。木でも花でも、戸でも障子でも、机でも、お父さまやお母さまやお友だちでさえも、色や形で見ることは出来ないのです。ただ、手でさわってみて、そういうものがあるということがわかるだけなのです。
 一郎君、保君、哲雄君の三少年は、今ちょうど、そういう目のない世界にいるのもおなじことでした。三人は決してめくらになったのではありません。目はちゃんとありながら、何も見えなくなってしまったのです。
 なぜかというと、そこには、どんなかすかな光も無かったからです。物が見えるのは、光というもののおかげですから、その光が少しもなければ、ちょうど目が無くなってしまったのと同じわけになるのです。
 どんなまっくらな闇夜でも、空のうすあかりで、かすかに物の形がわかるのですが、ここにはそういううすあかりさえありません。ほんとうにめくらになったのと同じ、黒暗々(こくあんあん)の闇なのです。
 少年たちは、どうかして、この恐しい暗闇を、のがれ出ようと、筏につんであった木箱の板で、しきりに水をかいて、筏を進めましたが、そうして半日ほども漕ぎつづけたのに、なんの変ったことも起らないのです。いくらさぐっても、手にさわるものは何もありません。闇はいよいよ深くなるばかりです。
「変だねえ、漕げば漕ぐほど、洞穴の方でひろがって行くじゃないか。いったい、ぼくらの筏は進んでいるのかしら。なんだか、いつまでも同じ所にいるような気がするぜ」
 一郎君のがっかりしたような声が、闇の中から聞えました。
「進んでいなくはないよ。水に手をつけてみると、筏の動いているのがわかるよ」
 考えぶかい哲雄君は、筏のふちにしゃがんで、水に手を入れているらしく、低い所からその声がしました。
「だって、変だなあ。いくら広いったって、僕たちはもう七八時間も漕ぎつづけたんだぜ。どっちかの岩の壁につきあたりそうなものじゃないか。壁の方で逃げて行くとしか思えないよ」
「いやだなあ、そんなこと言っちゃあ。僕こわいよ。まるで、その辺に魔物でもいるようなこと言うんだもの」
 保君のべそをかいたような声です。
 ほんとうに、この暗闇には、何か地の底の魔物というようなものがいて、少年たちをいじめているのではないでしょうか。それを考えると、三人はゾーッとして、思わずだまりこんでしまいました。
「ア、誰だい。びっくりするじゃないか」
 一郎君がとんきょうな声を立てました。
「僕だよ。僕こわいんだよ」
 保君が、たまらなくなって、手さぐりで一郎君にしがみついたのです。
「僕なんだか気違にでもなりそうだよ。ね、君たち、僕を抱いとくれよ。ね、早く」
 いつも無邪気でほがらかな保君ですが、それだけに、こういう時には、誰よりも先にこわがるのです。すこしも隠しだてをしないのです。
 それをきっかけに、三人は漕ぐのもやめて、筏のまんなかに、ひとかたまりになって、おたがいの体を抱きあうようにして、じっとしていました。
 しばらくすると、哲雄君が何か思いついたらしく、例の考えぶかい口調でいいました。
「魔物なんていやしないよ。そんなばかなことあるはずがないよ。でもね、僕、今ひょいと思いついたんだけど、僕たちの筏は同じところを、グルグルまわっていたのかも知れないと思うのだよ」
「エ、グルグルまわっていたって? どうしてさ」
 一郎君の声がびっくりしたようにたずねます。
「僕たちは筏の両方のはじで、板で水をかいていたんだろう。だからね。もしその漕ぐ力が、右と左で少しずつちがうとしたら、どうなると思う?
 力の強い方が、弱い方の側より、少しずつ早く進むわけだね。そうすると、筏は力の弱い方の側へ曲っていくわけじゃないか。少しずつ、少しずつだよ。でも二時間も三時間も漕いでいるうちには、グルッと一まわりして、又もとのところへもどってくることになるだろう。そして、大きな輪のように、いつまでも、同じところをまわっているのかも知れないぜ」
「ア、そうだ。僕そんな話を聞いたことがあるよ。曇った日に沙漠を旅している人が、向こうに何も目じるしがないものだから、知らず知らず同じところをグルグルまわっている話だよ。右の足と左の足と、少しずつ歩く力がちがうからだって」
「そうだよ。僕もその話を思い出したのさ。ここも真暗闇で何も見えないんだからね。その沙漠と同じわけだよ」
「それじゃ、どうすればいいんだい。右側と左側と、少しもちがわない力で漕ぐなんて、できっこないじゃないか」
 もし哲雄君の考えがあたっているとすれば、少年たちの筏は、広い広い闇の空洞の中で未来永劫大きな輪をえがきつづけていなければならないのです。沙漠の旅行者は、空さえ晴れれば、太陽や星を目あてに方角をさだめることが出来ますけれど、この洞窟には、いつまで待っても、太陽も星も出てはくれないのです。
 実にちょっとしたことです。ただ右と左と漕ぐ力が、ほんの少しずつちがうというだけのために、永久にその暗闇の世界からぬけ出せないなんて、考えても恐しいことではありませんか。
「僕たちどうすればいいんだろう。ね、どうすればいいんだろう」
 保君が悲しい声で言って、一そう強く二人に抱きつくのでした。
 三人はそうして抱きあったまま、しばらくだまりこんでいましたが、やがて、哲雄君の声が聞えて来ました。
「僕、君たちの顔が見たいなあ。こうして抱きあっていても、なんにも見えないんだもの。ほんとに変な気がするねえ。暗闇がこんなにこわいものだっていうことを、僕、今まで知らなかったよ。保君じゃないけど、こうしてじっとしていると、気がちがいそうになって来るよ」
 すると、誰かの声が、いきなりワーッと泣き出しました。保君です。そして、泣きながら、何かしゃべっているのです。
「神様、神様、……どうか僕たちを助けて下さい。……神様お願いです。……助けて下さい。……助けて下さい」
 それにつられて、ほかの二人も、口の中でお(いのり)をはじめました。もう人間の力では、どうすることも出来なかったのです。哲雄君の智恵も、一郎君の勇気も、このふしぎな運命を切りひらく力はなかったのです。
 三人はお祈をしながら、泣きました。まだ学校へ上らない幼い子供のように泣きました。でも、この少年たちを笑ってはいけません。いくらえらいといっても、みんな子供なのです。こんな目にあったら大人だって泣くかもしれません。しかも三人は、今までありとあらゆる苦しみに耐えて来た上なのです。もう力も智恵もつきはててしまったのです。
 それから長い時間がすぎ去りました。泣きくたびれた三人は、筏のまんなかに一かたまりになって、死んだようにグッタリとしていました。眠っていたのかも知れません。イヤ、眠るなんてのんきな気持になれるものですか。眠ったのではなくて、頭がしびれたようになって、夢うつつの境をさまよっていたのです。
 どれほどの間、そうしていたのでしょう。あとになって考えても、三人はその時間の長さをハッキリ思い出すことは出来ませんでした。たった一時間ほどのようにも思われました。又、二日も三日もたったようにも感じられました。
 最初気がついたのは、保君でした。保君は三人の内で、一ばん物に感じやすいのです。笑うのも泣くのも誰よりも早いかわり、目や耳や、皮膚の感じもすばやいのです。
 夢うつつでいた保君は、何かかすかな風のようなものが、頬のあたりをかすめて行くのを感じました。
 やっぱり何も見えない暗闇の中ですけれど、どうも今までとはちがったことが起っているように思われたのです。「オヤッ」というような気がしたのです。
 そこで、保君はすばやく頭をあげて、あたりをキョロキョロ見まわしました。しかし、右左(みぎひだり)前後(まえうしろ)と見まわしても、何も見えません。次に保君の目は洞穴の天井を見上げました。
「アラッ!」
 保君は思わず叫びました。その天井に、何だか宝石のようにピカピカ光ったものが、一つ、二つ、三つ……、数えてみると二十以上も見えるのです。
「一郎君、哲雄君、ちょっと起きてごらんよ。何だかピカピカ光っているよ」
 力をこめて、二人をゆり起しました。
「エ、どうしたの?」
 一郎君も哲雄君も、夢からさめたように、びっくりして起きあがりました。
「あれだよ。ホラ、あんなに光っている」
 三人は、何度も目をこすりながら、その小さな光るものを見つめていましたが、やがて、哲雄君が、大きな声で叫びだしました。
「ア、星だ。あれは空に光っている星だよ。星が見えるんだよ。星だ、星だ!」
 言われてみると、いかにもそれは星にちがいありませんでした。保君は洞穴の中だとばかり思っていたので、その遠い遠い空の星が、すぐ頭の上の岩の天井で光っているように感ちがいしていたのです。
 星が見えるからには、もう洞窟の中ではありません。筏はいつの間にか、恐しい地底の闇の国をぬけ出していたのです。
「ワー、助かった。僕たちは助ったんだよ。神様が助けて下さったんだよ」
 一郎君が思わず叫びだしますと、ほかの二人も、口々に何かわめきながら、筏の上におどり上って喜びあうのでした。

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