怪物追跡
やみと同じ色をした怪物が、東京都のそこここに姿をあらわして、やみの中で、白い歯をむいてケラケラ笑うという、うすきみの悪いうわさが、たちまち東京中にひろがり、新聞にも大きくのるようになりました。
年とった人たちは、きっと魔性のものがいたずらをしているのだ、お化けにちがいないと、さもきみ悪そうにうわさしあいましたが、若い人たちは、お化けなぞを信じる気にはなれませんでした。それはやっぱり人間にきまっている。どこかのばかなやつが、そんなとほうもないまねをして、おもしろがっているのだろうと考えていました。
ところが、日がたつにつれて、お化けにもせよ、人間にもせよ、その黒いやつは、ただいたずらをしているばかりではない、何かしらおそろしい悪事をたくらんでいるにちがいないということが、だんだんわかってきたのです。
あとになって考えてみますと、この黒い怪物の出現は、じつに異常な犯罪事件のいとぐちとなったのでした。できごとは東京を中心にしておこったのですが、それに関係している人物は、日本人ばかりではなく、いわば国際的な犯罪事件でした。
では、これから、黒い魔物のいたずらが、だんだん犯罪らしい形にかわっていくできごとを、順序をおってお話しましょう。
読者諸君がよくご承知の、小林少年を団長にいただく少年探偵団の中に、桂正一君という少年がいました。桂君のおうちは、世田谷区の玉川電車の沿線にあって、羽柴壮二君たちの学校とはちがいましたけれども、正一君と壮二君とはいとこどうしだものですから、壮二君にさそわれて少年探偵団にくわわったのです。
桂君は、自分が探偵団にはいっただけでなく、やはり玉川電車の沿線におうちのある、級友の篠崎始君をさそって、ふたりで仲間入りをしたのです。
ある晩のこと、桂正一君は、電車一駅ほどへだたったところにある、篠崎君のおうちをたずねて、篠崎君の勉強部屋で、いっしょに宿題をといたり、お話をしたりして、八時ごろまで遊んでいましたが、それから、おうちに帰る途中で、おそろしいものに出あってしまったのです。
もし、おくびょうな少年でしたら、少しまわり道をして表通りを歩くのですけれど、桂君は学校では少年相撲の選手をしているほどで、腕におぼえのある豪胆な少年でしたから、裏通りの近道を、テクテクと歩いていきました。