ふたりのインド人
さわぎのうちに一夜がすぎて、その翌日は、篠崎家の内外に、アリも通さぬ、げんじゅうな警戒がしかれました。緑ちゃんは、奥の一間にとじこめられ、障子をしめきって、おとうさま、おかあさまは、もちろん、ふたりの秘書、ばあやさん、ふたりのお手伝いさんなどが、その部屋の内と外とをかためました。十いくつの目が、寸時もわき見をしないで、じっと、小さい緑ちゃんにそそがれていたのです。家の外では、所轄警察署の私服刑事が数名、門前や塀のまわりを見はっています。じゅうぶんすぎるほどの警戒でした。
しかし、おとうさまもおかあさまも、まだ安心ができないのです。ゆうべの手なみでもわかるように、くせ者は忍術使いのようなやつですから、いくら警戒してもむだではないかとさえ感じられるのです。ひじょうな不安のうちに時がたって、やがて午後三時を少しすぎたころ、学校へ行っていた始君がいきおいよく帰ってきました。
「おとうさん、ただいま。緑ちゃん大じょうぶでしたか。」
「ウン、こうして、きげんよく遊んでいるよ。だがおまえは、いつもより、ひどくおそかったじゃないか。」
おとうさまが、ふしんらしくおたずねになりました。
「ええ、それにはわけがあるんです。ぼく、学校がひけてから、明智先生のところへ行ってきたんです。」
「ああ、そうだったか。で、先生にお会いできたかい。」
「それがだめなんですよ。先生は旅行していらっしゃるんです。どっか遠方の事件なんですって。でね、小林さんに相談したんですよ。するとね、あの人やっぱり頭がいいや。うまいことを考えだしてくれましたよ。おとうさん、どんな考えだと思います。」
始君は大とくいでした。
「さあ、おとうさんにはわからないね。話してごらん。」
「じゃ、話しますからね。おとうさん耳をかしてください。」
そんなことはあるまいけれど、もし、くせ者に聞かれたらたいへんだというので、始君は、おとうさまの耳に口をよせて、ささやくのでした。
「あのね、小林さんはね、緑ちゃんを変装させなさいというのですよ。」
「え、なんだって、こんな小さい子どもにかい?」