「いい気分だな。都会のあわただしさを忘れてしまう。このへんで、ちょっと休もう」
とエヌ氏は足をとめ、道ばたに腰をおろした。近くにはくずれた石垣などがあった。友人は案内書の地図を出し、それを見ながら言った。
「このあたりには、むかし城があり、はげしい戦いがおこなわれた場所だそうだよ」
「しかし、落ちついたながめで、そんな感じは少しもしないな。どうだろう、今夜はここでキャンプをしよう」
「ああ、悪くないな」
意見はまとまり、そこにテントをはった。近くの小川から水をくんできて、夕食を作った。やがて静かな夜が訪れてきて、二人は眠りについた。
眠っている時、エヌ氏は夢を見た。しかも、はっきりした夢だった。
それにはヨロイを着て、立派なカブトをかぶった武士があらわれた。どこか傷をうけているようだし、手には鉄でできた箱を重そうにかかえている。そのため、苦しそうに息をきらし、足をひきずりながら歩いてきた。
武士はあたりを見まわしていたが、そばにだれもいないことをたしかめると、地面に穴を掘り、箱をなかに入れた。それから、上に土をかぶせてわからないようにし、目じるしにするためか石を置いた。武士はほっとしたような顔で、最後にこうつぶやいた。
「これでよし。たとえこの戦いで負け、城が奪われても、これさえ確保しておけば再起をはかることができる」
ははあ、軍用金をかくしたというわけだな。こう考えているうちに、エヌ氏は目がさめた。
いつのまにか朝になっていた。エヌ氏は友人に、いまの夢の話をした。すると友人は、驚いた表情で言った。
「これはふしぎだ。じつは、ぼくもそれと同じ夢を見た。ひとりだけならなんということもないが、二人そろってとなると、ただごとではない。これはきっと、あの武士の魂があらわれて、ぼくたちに告げたのにちがいない」
「あの箱がまだ埋まっていて、それを発見できたらすばらしいな。しかし、場所はどこなのだろう」
「たぶん、この近くだろうと思うよ。さあ、さがそう。手にはいれば大金持ちになれるのだ」
二人は近所を歩きまわった。そのうちエヌ氏は、草のかげに夢で見たのと同じ石を見つけ、叫び声をあげた。
「おい、ここらしいぞ」
二人は目を輝かせ、折ってきた木の枝で掘りはじめた。はたして手ごたえがあり、夢で見たのと同じ鉄の箱があらわれた。しかし、土のなかに長いあいだあったため、さびてぼろぼろになっていた。
箱は、たやすくあけることができた。だが、そこにはいっていたのは金ではなく、なにかをしるした紙だった。友人はため息をついた。
「なんだ、つまらない。ただの書類じゃないか」
「まだ、がっかりするのは早い。武士があんなに貴重そうにかくした品だ。軍用金のかくし場所を書いた図面だろう。よく調べてみよう」
二人は紙をひろげ、書かれていることを読んだ。そして、顔を見あわせてにが笑いし、こんどは本当にがっかりした。
しるされてあったのは、火薬の作り方だったのだ。たしかに、むかしは重大な秘密だったにちがいないが、いまではとくにさわぐほどのものではない。