「しばらくお会いしませんでしたが、お元気ですか。あいかわらず、いそがしいのでしょうね」
ケイ博士は喜んで迎え入れた。
「どうぞ、おはいり下さい。やっと研究が一段落したところです。それに、ぜひお目にかけたいものがあります」
「なんですか」
とエス博士が聞くと、ケイ博士は庭にむかって、
「リオン、リオン」
と呼んだ。すると、一匹の動物がすばやい動きで、へやのなかに入ってきた。
見なれない動物だった。大きさはネコぐらいだが、黄色っぽい色で、しっぽが大きかった。
大変かわいらしい。それをながめながら、エス博士は質問した。
「こんな動物を見るのは、はじめてです。どこで発見したのですか」
「いや、これは、つかまえてきたものではありません。わたしが作りあげた、混血の動物なのです」
「なんとなんとの混血ですか」
「リスとライオンですよ。リオンという名前も、それでつけたのです」
とケイ博士に説明されてみると、たしかに、その両方に似ている。エス博士は目を丸くしながら言った。
「これは驚いた。しかし、なんでまた、こんなものを作る気になったのです」
「最も強い百獣の王ライオンと、小さくてかわいいリスと組み合わせたらどうなるかに、興味を持ったからです」
「なるほど、さぞ苦心なさったことでしょうね。学問的には、大変な価値があるでしょう。だけど、なにかの役に立つのですか」
ケイ博士はうなずき、リオンの頭をなでながら答えた。
「立ちますとも。これは両方のいい性質をかねそなえています。つまり、飼い主に対してはリスのごとくおとなしく、敵に対してはライオンのごとく勇敢です」
「なるほど」
「ごらんのように、ペットとしてもすばらしく、また、普通の番犬よりはるかに強いわけです。どんな強盗でも追い払ってしまいます。このあいだは探検旅行に連れてゆきましたが、これといっしょだと、ほかの猛獣が近よってきません。ライオンのにおいがするためです。おかげで、夜も安心して眠ることができました」
「便利なものですね……」
エス博士は感心しながら家に帰った。しかし、うらやましがっているだけでは、つまらない。自分も同じ考え方で、なにか新しい植物を作りあげてやろうと決心した。
ところで、どんなのがいいだろう。くだものを食べながら、あれこれと考えたあげく、エス博士は目を輝かせて叫んだ。
「そうだ。ブドウとメロンとで新種を作ることにしよう。メロンの実が、ブドウのようにたくさんなる植物だ。ブロンと名前をつけてやろう。きっと、もうかるにちがいないぞ」
エス博士は温室にとじこもり、研究に熱中し、なんとかタネを作りあげた。
「これでよし。早く芽を出せ、ブロン、ブロンだ」
ブロンはどんどん成長した。
そして、ついに実のなる時がきた。しかし、エス博士はがっかりした表情で頭をかいた。ブドウのように小さい実が、メロンのように少ししかならなかったのだ。
人まねをしても、簡単に成功するとは限らないようだ。博士はブロンの実をもぎ、つまらなそうに口に入れた。ちょっぴりすっぱい味だった。