ほら穴の奥を調べようときまった。プーボが先に立ち、みなはあとにつづいた。まっ暗で、上からぽつぽつと水がたれていた。なにが現われるかと、ランプの光で照らしながら、ゆっくりと進んだ。
穴はけっこう深かった。しばらくすると、道は二つに分かれていた。みなはひと休みした。
「どっちへ進むの……」
と、ミノルが言った。キダはプーボに言った。
「なにか、もの音は聞こえないか」
「いいえ、静かです。どっちへ行ったらいいのか、わたしにもわかりません」
ハルコは穴の奥に呼びかけた。
「ねえ、だれかいたら出てきてよ……」
しかし、声の反響だけで、答えはなかった。
「しかたがない。まず、右のほうへ進もう」
と、キダが歩きかけると、プーボが言った。
「待ってください。左のほうの奥から、なにか音がしはじめました。なぞがあるとしたら、こっちでしょう」
プーボについて進むと、奥からの変な音は、みなの耳にも聞こえてきた。うなり声のようだった。そして、想像もしなかったものが、姿を現わした。
みなは思わず足を止めた。青白く光っており、高さは二メートルぐらい。目も鼻も口もないのっぺらぼうだった。手もなく、足のほうはぼやけていた。ときどき、うなり声をあげる。気持ちの悪い叫びだ。それは、少しずつ近よってくる。
「だれだ。なにものだ……」
と、キダが呼びかけたが、もちろん答えない、キダは光線銃をかまえたが、うつのは止めた。危険な敵なのかどうか、まだわからないのだ。
「眠りガス弾を投げてみます。たいていの動物なら、しばらく動けなくなります」
と、プーボが言い、キダがうなずくと、また指を一本はずして投げた。みなは宇宙服を着ているので大丈夫だ。白い煙がたちこめたが、のっぺらぼうの怪物はひるまなかった。煙のなかを近よってくる。プーボは勢いよく飛びかかった。どんな相手でも、やっつけてしまうはずだった。しかし、そのままはねかえされてしまったのだ。プーボは、
「弾力がある手ごわい相手です。また、表面はつるつるで、つかまえようがなく、わたしの力は使えません」
怪物は進み、こっちはしりぞいた。キダは決心し、光線銃の引き金をひいた。目もくらむような光が発射され、命中すると高熱でとかしてしまうのだ。
だが、怪物は平気で進んでくる。ガスも高熱もだめなのだ。みなは退却し、穴の出口のそばまできてしまった。しかし、外には逃げられない。おそろしい鳥たちが待ちかまえているのだ。
夢に現われた赤い玉のなぞを追って、ここまできて、こんな目に会うとは、だれも考えてもみなかった。あの夢は、おびきよせて殺すためのワナだったのだろうか。
「どうしましょう……」
と、ハルコが言うと、キダは、みなをはげました。
「がんばれ、なんでもいいから戦うのだ」
キダは、拳銃を出してうった。プーボは煙幕を使った。ミノルとハルコは石を拾って、どんどん役げつけた。穴の外へおし出されたら終りなのだ。
どれくらいの時間がたったろうか。煙が散ったあとに、怪物は立ち止まっていた。もう進んでもこず、声もたてなかった。
ほっとして見つめていると、怪物は皮をぬいだ。かぶっていた外側をはずしたのだ。あまりのことに驚いていると、なかから、また思いがけぬものが現われた。
四本の細長い足があり、その上に直径五十センチぐらいの丸い玉がのっている。そして、それは水玉もようのある赤い玉だった。ミノルとハルコが何度も夢で見たのと同じだった。
プーボが近よって調べ、報告した。
「なにかの装置のようです。足は非常に弾力のある金属製です。かぶっていたものは、成分はわかりませんが、とてもなめらかです。すそのほうが黒いので、おばけとまちがえてしまいました。こうと知ったら、別なやり方でやっつければよかった」
物体は、おとなしくなっていた。それどころか、穴の奥へと戻りはじめたのだ。その動きには、あとへついてきなさい、という感じがあった。
みなはあとにつづいた。ここまできて、おじけづいてはいられない。赤い玉は四本の細い足で進み、やがて止まった。
そこには、四角の細長い箱が置いてあった。なにが入っているのだろう。ガラスのはまった小さな窓があり、キダはなにげなくのぞいて「あっ」と声をあげた。ミノルとハルコものぞいてみた。
なかには人が横たわっており、身動きもしない。地球人に似ているが、そうではなかった。皮膚の色がみどりがかっており、かみの毛はピンクだった。
「死んでいるのでしょうか……」
「わからない」
話し合っているのにおかまいなく、赤い玉は足の一本を使い、箱の横についている、いくつものボタンを押した。
しばらくすると、なかの人は目を開き、動きはじめ、内側から箱をあけて出てきた。銀色のマントを着ていた。そして、なにか言った。だが、みなは驚きで声も出なかった。
相手はうなずいて、箱の中からメダルぐらいの大きさのものを出し、自分のひたいにはりつけた。
とたんに、みなにひとつの声が伝わってきた。
「わたしはオロ星人で、デギという名です。ある任務をおびて宇宙を旅行中、ここに不時着しました。やむをえず、冬眠状態になり、救援を待つことにしたのです。なによりもまず、この赤い玉がなにかをお知りになりたいようですね。これはわたしの番をし、救助信号の電波を出しつづける装置なのです。また、文明を持った生物がやってきたら、わたしを冬眠からめざめさせてくれるのです……」
ミノルとハルコは顔を見合わせた。あの夢は、この装置の出す電波のせいで、助けを求める意味の信号だったのか。それがやっとわかったのだ。しかし、われわれが文明の持ち主だと、どうしてわかったのだろう。それに答えるように、相手が言った。
「文明の持ち主は、いろいろな攻撃方法を持っています。つづけて四種類以上の攻撃をこの玉に加えると、戻ってきてわたしを起こすのです……」
変な装置だな、とミノルは思った。眠りガス弾、光線銃、拳銃、それに石で、四種類になる。しかし、やはり最後までがんばってみてよかったようだ。石を投げたのがきいたことになるんだもの。
オロ星人のデギは、身をのり出して言った。
「玉のことはこれくらいにして、わたしのことをお話しましょう」