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四 前代未聞の大事件(1)_失われた世界(失落的世界)_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:四 前代未聞の大事件 ドアが閉まると同時に、チャレンジャー夫人が食堂からとびだしてきた。この小柄な婦人はかんかんに怒って
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四 前代未聞の大事件
 ドアが閉まると同時に、チャレンジャー夫人が食堂からとびだしてきた。この小柄な婦人はかんかんに怒っていた。にわとりがブルドッグの前に立ちはだかったという恰好かっこうで、夫の行手をさえぎった。明らかにわたしがこの家から出るところだけを見て、また戻ってきたことは知らないのだ。
「いけないわ、ジョージ! あの若い人に怪我をさせたのね」 彼は肩ごしに親指を突き立てた。
「うしろでピンピンしているよ」
 彼女はうろたえたが、これは無理もなかった。
「すみません、つい気がつかずに」
「いや奥さん、どうぞご心配なく」
「でも、その目のあざはうちの人がやったんでしょう! ジョージったら、なんて乱暴なんでしょう! 一日としてスキャンダルの絶える日がないじゃありませんか。世間の人たちはみなあなたを嫌ったりばかにしたりしてるんですよ。わたしだってもう我慢がなりません。絶対にこれっきりですよ」「人前に恥をさらすな」と彼がわめいた。
「世間さまはもうとっくに知っていますよ。ご近所の人たちが、いいえロンドン中が――あなたは遠慮しなさい、オースチン――あなたの噂をしているとは思ってもみないんですか? 教授の権威はどこにあるんです? 一流大学で欽定講座を担当して、何千人という学生の尊敬を受けるべきあなたなんですよ。その権威はいったいどこにあるんです、ジョージ?」「では、おまえの権威はどうなんだ?」
「わたしを困らせてばかりいるのね。わめき散らすことしか知らないありふれたごろつき――あなたはそんな人間になってしまったんですよ」「やめてくれ、ジェシー」「かんしゃくもちの乱暴者!」
「もういい。さらし台の上で後悔させてやる!」
 驚いたことに、彼はかがみこんで彼女をひょいと抱き上げ、廊下の隅にある黒大理石の高い台座にちょこんと腰かけさせた。高さが少なくとも七フィートはあり、おまけにやっと坐っていられるほどの広さしかなく、ひどく、バランスがとりにくそうだった。怒りに顔をひきつらせ、両足をだらりと下げて、体をこわばらせながら今にも落っこちそうな不安と闘っている彼女の姿ほど珍妙な見せ物は、ほかにとうてい想像できなかった。
「おろしてくださいな!」と、彼女は泣き声を出した。
「『お願いします』と言え」
「なんて人でしょう。すぐにおろしてちょうだい!」「書斎へ来たまえ、マローン君」「しかし――」わたしは夫人から目をはなせなかった。
「マローン君もおまえのためにああ言ってくださる。どうだ、『お願いです』と言ったらおろしてやるぞ、ジェシー」「なんて憎らしい! お願いです、どうぞ!」
 彼はまるでカナリアかなにかのように、軽々と夫人を抱きおろした。
「もっと行儀よくしなくてはいかんな。マローン君は新聞記者だ。あしたの新聞で洗いざらい書き立てられて、しかも近所でふだんより一ダースも多く新聞が売れるかもしれんぞ。『上流生活ハイ?ライフの奇妙な物語』なとという見出しをつけられて――だってあの上にいるとひどく高くハイ感じるんだろう? 小見出しは、『風変わりな家庭の瞥見べっけん』とでもいうところかな。マローン君も同業諸君の例にもれず、ゲテ物食いだからね。ポルクス?エクス?グレーゲ?ディアボリ、つまり、悪魔に飼われた豚というところかな、マローン君?」「あなたは実に我慢のならない人だ」と、わたしは熱くなって叫んだ。
 彼はほえるような大声で笑った。
「ま、どうせすぐ仲なおりするんだよ」と言って妻からわたしのほうに視線を転じ、大きな胸をふくらませた。それから、急に言葉つきを変えて、「わが家のつまらぬ悪ふざけには目をつぶってくださらんか、マローン君。わしがきみを呼び戻したのは、こんな夫婦間の気まぐれにまきこむためじゃない、もっと真面目な目的があったのだ。おまえは向こうへ行ってなさい、もう怒ってもはじまらんぞ」彼は妻の両肩に大きな手を置いた。「おまえの言うことは一々当たっとる。おまえの忠告を全部聞き入れていれば、わしも少しはましな人間になれるだろうが、そのかわりジョージ?エドワード?チャレンジャーの真価はうすれてしまう。わしよりましな人間はいくらでもいるが、G?E?Cはこの世にただ一人しかいない。だからよくも悪くもこのわしで我慢してもらうより仕方ない」突然、彼は大きな音をたてて夫人に接吻し、さきほど暴力をふるったとき以上にわたしを当惑させた。それから、やおら威厳のある態度にかえってつけ加えた。「では、マローン君、よかったら?????こちらへ来たまえ」 われわれは十分前にさんざんのていたらくでとびだした部屋へ、あらためて入りなおした。教授は用心深くドアを閉めて、わたしに肘掛椅子をすすめ、鼻の先きへ葉巻ケースを押してよこした。
「本物のサン?ファン?コロラドだ。きみのように興奮しやすい男は、鎮静剤の効き目も早いだろう。いかんいかん! 噛む法があるか! 切るんだ――こんなふうにていねいにな。さてと、ではくつろいでわしがこれから話すことをよく聞いてくれ。途中で何か言いたいことがあっても、適当な話の切れ目まで遠慮してくれたまえ。まず第一に、きみが追い出されるべくして追い出されたあと、ふたたびここへ戻ってこられたわけを説明しよう」――彼はひげをしごいて、異議申し立てをそそのかすかのようにわたしの顔色をうかがった――「さよう、当然追い出されるべくして追い出されたあとでだ。その理由はさきほどのおせっかいな警官に対するきみの答えの中にある。あのときのきみの答えには、かすかながらわしに対する好意のようなものが感じられた――いずれにせよ、きみたち新聞記者仲間には、わたしの知る限りなかったことだ。きみは自分の落度を正直に認めることによって、公正な精神と広い見識の証拠を示してわしの目にとまったというわけだ。不幸にしてきみもその一人である下等人類は、知能の点ではみな例外なくわしよりも水準が低い。しかしきみの最前の言葉は、いっきょにきみをわしの水準まで引き上げた。わしが真面目にとり合うに足るところまで追いついてきたのだ。この理由で、きみをあらためて家の中へ招じ入れて、もっとよくきみの人柄を知りたいと考えた。ところで煙草の灰は、きみの左手にある竹製のテーブルの、小さな日本製の灰皿に落としてくれんかね」 これだけのことを、彼は教室で講義をする教授のように、がんがんするような声で言ってのけた。回転椅子をぐるりとまわしてまっすぐわたしのほうを向き、巨大な食用がえるのようにおなかをいっぱいにふくらましていた。頭は思いっきりふんぞりかえり、尊大なまぶたがなかば閉じられていた。それが突然半身になったので、今度はもつれあった髪の毛と、赤い突き出た耳しか見えなくなった。机の上に散らばっている書類をかきまわしはじめたのだ。間もなくぼろぼろになったスケッチブックらしき物を手にとってふたたびわたしのほうに向きなおった。
 
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