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六 神の鞭 ジョン?ロクストン卿(1)_失われた世界(失落的世界)_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:六 神の鞭 ジョン?ロクストン卿 ジョン?ロクストン卿とわたしはヴィゴー?ストリートへ折れて、有名な貴族長屋のうす汚れた門
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六 神の鞭 ジョン?ロクストン卿
 ジョン?ロクストン卿とわたしはヴィゴー?ストリートへ折れて、有名な貴族長屋のうす汚れた門をくぐった。くすんだ長い廊下のはずれで、わたしの新しい友人はとあるドアをあけて電燈のスイッチをひねった。着色したシェードを通して輝く多くの電燈の明りが、広々とした部屋全体を赤っぽい色で照らしだした。戸口に立って周囲を見まわすうちに、この部屋が男くささと結びついた並々ならぬ居心地のよさと優雅さの印象を与えることに気がついた。金持のぜいたくな趣味と、独身者の気のおけない乱雑さが入りまじって、そこかしこに感じられた。高価な毛皮とどこか東洋のバザールで買いもとめたらしい不思議な虹色にじいろのじゅうたんが、無造作に床に散らばっている。その方面にかけてはずぶの素人しろうとであるわたしの目にも、高価な貴重品だとわかる絵や版画が、四方の壁に所せましとばかりかかっている。ボクサーや、バレリーナや競争馬のスケッチがあるかと思えば、そのとなりには肉感的なフラゴナールや勇壮なジラルデや夢見るようなターナーがかかっているという具合だ。だがこれらの装飾品にまじって、いくつものトロフィーが飾られており、ジョン?ロクストン卿が現代有数の万能スポーツマンであることをわたしに思いおこさせた。マントルピースの上にたがいちがいに飾られたダーク?ブルーとチェリー?ピンクのオールは、彼がァ’スフォード出でレアンダー?クラブの一員であることを物語っているし、その上下にある細身の剣と拳闘グラヴは、持主がこの二つの競技において優勝した記念だった。部屋の一方の羽目板には、すばらしい狩猟の獲物の首がずらりと並び、最上段で尊大な下あごをだらりと垂れているアフリカのラド?エンクレーヴ産の珍しい白サイも含めて、世界各地で仕とめた逸品ぞろいだつた。
 高価な赤いじゅうたんの中央に、黒と金色のルイ十五世ふうのテーブルがあった。このりっぱな骨董こっとう品も、今はグラスのしみや葉巻のやけこげで無残に痛めつけられている。テーブルの上には煙草たばこの入った銀の盆とつやつやに光った酒びん立てがあり、それと近くにあるサイフォンで、この部屋のあるじは物も言わず丈の高いグラスに飲物を作りはじめた。わたしに手ぶりで肘かけ椅子をすすめ、飲物をそばに置いてから、彼は一本の長い、口当たりのよいハバナ葉巻をさしだした。それからわたしと向かい合って腰をおろし、奇妙な輝きをおびた無遠慮な目――氷河湖のような冷たいライト?ブルーの光をたたえた目で、じっとわたしを見つめた。
 軽やかな葉巻の煙を通して、すでに写真で何度も見たことのある顔を、あらためて詳細に観察した。いかめしくそりかえった鼻、くぼんだ頬、てっぺんの薄くなった色濃こい赤毛、ちぢれた男性的な口ひげ、しゃくれたあごの小さく刈りこんだ攻撃的なひげ。ナポレァ◇三世のようなところもあればドン?キホーテのような感じもするが、それでいてまぎれもないイギリスの田舎紳士、すばしこく、活動的で、猟犬や馬を愛するスポーツマン?
タイプだった。肌は太陽と風のおかげで、高価な植木鉢のような赤色だった。眉毛はふさふさと垂れさがり、もともと冷たい目に恐ろしさを与え、しかも意志の強そうな、しわの刻まれた額によってその印象は倍加されていた。痩せてはいるが骨組みはがっちりしており、実際、イギリス人でもこれほど底力の出せる人はめったにあるまいということを、実地に示したこともしばしばあった。身長は六フィートを少し上まわるのだが、異常なほど盛りあがった肩のせいで、実際より低く見えた。以上が、今わたしと向かい合って、荒々しく葉巻を噛みながら、無言でじっとわたしを見つめて妙に落ちつかない気持にさせている、有名なジョン?ロクストン卿の印象である。
「ところで」と、ようやく彼は口を開いた。「われわれも思いきったことをしたもんだね、お若いのヤング?フェラ?ラッド」(彼はこの『お若いの』というあまり耳なれない言葉を、一語であるかのように言ってのけた)「まったくのところ、二人とも向こう見ずな点では似た者同士だ。おそらくきみも会場へ到着したときには、まさかこんなことになると思ってはいなかったろうね」「考えてもみなかったです」
「こちらもご同様だ。考えてもみなかった。ところが今は二人とも首までどっぷりつかってしまった。ぼくなんか三週間前にウガンダから帰ってきて、スコットランドに家を一軒借りたばかりで、家賃の契約や何もすませてしまったところさ。実際われながら不可解だよ。きみのほうはどうなんだい?」「ぼくの場合は、仕事と大いに関係がありましてね。ぼくは『ガゼット』の記者ですから」「それは知ってる――志願して出たとき、きみがそう言ってたからね。ところで、もしよかったらきみに頼みがあるんだが」「なんなりと喜んで」
「危険が伴っても?」
「どんな危険です?」
「それが、危険というのはバリンジャーなんだ。きみも聞いたことがあるだろう?」「いや、初耳です」「おやおや、きみはどこで育ったんです? サー?ジョン?バリンジャーといえばスコットランド随一の騎手なんだぜ。ぼくなんかせいぜいうまくいって互角に太刀打ちできるかというところで、障害競走になると全然歯がたたん。ところで、彼が練習以外のときは酒びたりだということが、今や公然の秘密なんだ。びっくりするような酒量だと、彼自身が言っている。このところ火曜日というと錯乱状態になって、悪魔のように荒れ狂うんだ。
彼はちょうどこのま上に住んでいる。医者はみな何か食べなければ手のほどこしようがないと言っているが、なにしろ本人はピストルをかたわらに置いてかけぶとんの上に寝ころがり、そばへ近寄るやつには弾丸を六発ぶちこんでやると宣言しているもんだから、召使どももストライキをおこす始末なんだ。ジャックは腕っぷしが強いうえに拳銃の名手ときている。しかし、グランド?ナショナルの優勝騎手にそんな死にかたをさせるわけにもゆくまいが――きみはどう思う?」「じゃ、どうしようというんですか?」
「きみとぼくで不意打ちしたらどうかと思うんだ。彼はおそらくうつらうつらしているだろうから、悪くっても一人が怪我けがをするだけで、その間にもう一人が取りおさえられる。枕カバーを彼の両腕にまきつけてしまえればしめたもんだ。あとは電話をかけて胃ポンプをとり寄せ、命の綱の夕食を無理にでもとらせるという寸法さ」 前ぶれもなしにいきなり持ちかけられたにしては、かなり危険な仕事だった。自分が人並み以上に勇敢な人間だとは思わない。おまけにアイルランド人特有の想像力のせいで、未知の事柄に対すると実際以上に恐ろしく感じる傾向がある。しかしその反面、卑怯者と呼ばれることを極度に恐れながら育ってきた。勇気を疑われるぐらいなら、歴史書に出てくるフン族のように、断崖からとびおりるほうがはるかにましだと思う。それでいて、その行為を駆りたてるのは、実は勇気ではなくて自尊心と恐れなのだ。そんなわけで、頭上の部屋にいるアル中の姿を想像するだけで尻ごみしたくなったが、せいいっぱい無造作なつくり声で、今すぐでも結構ですと答えていた。ロクストン卿がなおも危険について話すのを聞くうちに、わたしは妙に落ちつかなくなってきた。
 
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