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六 神の鞭 ジョン?ロクストン卿(2)

时间: 2024-07-30    进入日语论坛
核心提示:「話を聞いても危険が減るわけじゃない」わたしは言った。「行きましょう!」 われわれは腰をあげた。するとロクストン卿は、く
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「話を聞いても危険が減るわけじゃない」わたしは言った。「行きましょう!」 われわれは腰をあげた。するとロクストン卿は、くっくっと親しそうに笑って、わたしの胸を二度三度軽く叩き、やがてふたたび椅子に押し戻した。
「よかろう、坊や――きみなら大丈夫だ」と彼は言った。
 わたしは驚いて相手の顔を見た。
「ジャック?バリンジャーの世話は、今朝ぼく自身がやってのけたよ。キモノの裾に一発くらって穴があいたが、彼の手がふるえていたおかげで助かった。ちゃんと拘束服を着せたから、一週間もすれば全快だろう。気を悪くしないだろうね、マローン君? きみとぼくの間には深いつながりができたわけだが、今度の南アメリカ行きはなかなかの大仕事だと思っている。そこで、同じ仲間なら信頼のおける人物をと考えたわけだ。そのためにきみをここへ連れてきたんだが、きみは見事合格した。なにせあのサマリー老人は最初から世話をやいてやらなきゃならんだろうから、きみもぼくも責任重大というわけだ。それはそうと、きみはアイルランド代表ラグビー?チームの選手候補になっているあのマローン君ですか?」「たぶん補欠ですよ」
「どこかできみの顔を見たことがあるような気がする。そうだ、対リッチモンド戦できみがトライをあげたとき、ぼくは試合を見ていた――あのシーズンを通じて最高のスワーヴだったよ。ぼくはラグビーの試合だけは事情が許すかぎり見ることにしている。あれは人類が考えだした最高に男性的なゲームだからね。しかし、スポーツの話をするためにきみを誘ったわけじゃない。仕事の打ち合わせにかかろう。『タイムズ』の一面に出船表がでている。来週水曜日にパラ(ブラジル北部の港)行きのブース汽船が出る。教授ときみの都合さえよければ、これに間に合わせられると思うが、どうかな? よろしい、教授と打ち合わせしておこう。ところできみの装備は?」「社のほうで用意してくれるでしょう」
「射撃はできるかね?」
「まあ国防義勇軍の標準というところですか」
「なんてこった! そんなにお粗末なのかい?若い連中はどうして射撃をおぼえようとしないんだろう。ハチの巣の世話をするだけなら、針のないハチでも用は足りるというわけか。だがそんなことじゃ、だれかが蜜をくすねにやってきたとき、いつかは恥をさらすことになるよ。南アメリカでは、教授が気ちがいか嘘つきでないかぎり、帰るまでにいろんな危険にもでくわすだろうから、少なくとも銃をまっすぐに構えるぐらいはできたほうがいい。どんな銃を持っているのかね?」 彼は樫材の戸棚に歩み寄ってさっと扉をあけた。ァ‰ガンのパイプのような、ピカピカ光る二連銃の銃身がちらと目についた。
「ぼくの銃の中から、きみに貸してあげられるやつがあるかもしれん」と彼は言った。
 彼は美しいライフル銃を一梃ちょうずつとり出して、カチッと音をさせながら銃身をあけたり閉じたりしたあと、まるで子供をあやす母親のような手つきでやさしく撫でながら元へ戻した。
「これはブランド製〇?五七七速射銃だ。こいつであの大物を仕止めたんだよ」と言って、彼は白サイを見あげた。「あと十ヤードで、こっちがやつの獲物になるところだった。
この円錐形の弾丸こそ わが運命のよりどころ、
げに弱き者の 正当なる味方なり。
 ゴードンを知ってるだろうね。彼は馬と銃の詩人で、その二つながら達人だった。ところで、これも役に立つ銃だ――〇?四七〇口径、望遠、ダブル?エジェクターつき、射程距離は直射で五十三フィート。三年前ペルーの奴隷監督どもに対して使った銃だ。あの国では神の鞭のように恐れられたものだった。もっとも、どの議会報告書にもこの話は出ていないがね。人間だれしも人間の権利と正義のために立ち上がらなくてはと感じるときが何度かあるんだよ、マローン君。そうしないと一生うしろめたい思いにつきまとわれる。
だからこそぼくも自力で小さな戦争を戦ってきた。宣戦布告から戦闘行為、そして終結まで何もかも自分でやってのけた。この傷痕はみな奴隷殺しと闘ったときにできたものだ――どうだい、たくさんあるだろう? 一ばん大きなやつは連中の親分株のペドロ?ロペスと闘ったときの名残りだが、あいつはプトマヨ川の黒い流れの中で殺してやった。さあ、きみに向きそうなやつがあったぞ」彼は美しい褐色と銀色のライフルをとり出した。
「台尻にはゴムの肩当てがついているし、命中率も高く、弾倉には薬莢を五個装填できる。これなら命を託せるよ」彼はその銃をわたしに手渡して樫かしの戸棚をしめた。それから椅子に戻って、「ところできみはチャレンジャー教授についてどんなことを知っている?」「今日はじめて会ったばかりですよ」
「ぼくもそうなんだ。われわれが二人とも知りもしない人間から、内容のわからない命令を受けて船に乗るなんて、妙だとは思わないかね?彼は思いあがった男らしかった。仲間の科学者には好かれていないようだった。だいたいきみがこの問題に興味を持ったいきさつは?」 わたしが午前中の経験をかいつまんで話すのを、彼は熱心に聞いていた。やがて南アメリカの地図を引っぱりだしてテーブルに拡げた。
「彼がきみに話したことは全部本当らしい。いいかね、ぼくがこういう言い方をするのは、まだ話したいことがあるからだ。南アメリカはぼくの好きな土地だし、ダリエン(パナマ地峡の旧名)からフエゴ諸島(アルゼンチン南端の諸島)まで縦断してみたまえ、そこは地球上で最も雄大で、豊かで、驚異に満ちた土地だ。人々はまだこの土地のことを知らないし、将来どうなるかもわかっていない。ぼくはこの大陸をはしからはしまで歩いてみたし、さっき話した奴隷商人との闘いのときには、あそこで二度も乾期をすごしたことがある。で、その間に二度もこれと同じような話を聞いた。インディアンの伝説か何かだが、その裏にはきっと何かがありそうだ。あの地方のことをよく知れば知るほど、何があっても不思議はないという気がしてくる――実際、どんなことでもだ。原住民が利用する細い水路があるだけで、あとはまったくの暗黒だ。さて、ここマット?グロッソ(ブラジル西部の大密林?草原地帯)は」――彼は葉巻で地図の一部をなぞった――「つまり三国の国境が接するこのあたりは、何がおこっても驚かないほどの神秘地帯だ。今晩教授も言ったように、ヨーロッパがすっぽり入ってしまうような大森林の中を五万マイルの水路が流れている。きみとぼくがスコットランドとコンスタンチノープルほどはなれた場所にいたとしても、それでもなお同じブラジルの大森林の中にいることになるのだ。人間はこの巨大な迷路のここかしこに、ポツリポツリとか細い道を作っているにすぎない。なにしろ同じ川の標高が場所によって四十フィートも異なり、国の半分は足を踏み入れることもできない沼沢地なんだ。こんな国だから何か新しい、不思議なことがあったとしてもいっこうにおかしくない。それをわれわれが最初に発見してどこが悪い? それに」彼は痩せた奇妙な顔を輝かしてつけ加えた。「ここにはいたるところスポーツ的なスリルがある。
 
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