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七 明日は秘境に入る(1)_失われた世界(失落的世界)_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:七 明日は秘境に入る わたしは、ブース汽船上のぜいたくな船旅や、一週間におよぶパラ滞在の話で、この手記の読者を退屈させる
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七 明日は秘境に入る
 わたしは、ブース汽船上のぜいたくな船旅や、一週間におよぶパラ滞在の話で、この手記の読者を退屈させるつもりはない(ただし、装備の点で絶大な援助を惜しまなかったペレイラ?ダ?ピンタ?カンパニーに対して、ここに感謝の念を記しておく)。また、川の旅についてもごく簡単に触れるだけにとどめよう。われわれは、大西洋を横断した『フランシスカ号』よりほんの少し小さいだけの汽船で、広い、流れのゆるやかな泥水の川をさかのぼった。ついにァ∮ドス河峡を通過してマナウスの町に着いたが、ここでは英伯貿易会社の代表ショートマン氏のおかげで、田舎宿のわびしさから救われた。氏の手厚いもてなしを受けながら日を送るうちに、チャレンジャー教授の指定した開封の期日がついにやってきた。その日の驚くべき事件を語る前に、二人の同行者と南アメリカへきてからの知り合いについて、もう少し詳しく触れておきたい。以下わたしは思いのままに語るつもりだから、マッカードル氏よ、公表に際してはあくまでこれを資料として、あなたの思い通りの形に刈りこんでいただきたい。
 サマリー教授の科学的識見は広く一般に認められているから、わたしが改めてくりかえすまでもないだろう。とにかく最初に受ける感じよりも、この種の危険な探検に向く人物であることは確かである。長身痩躯そうく、筋だらけの肉体は、まったく疲れるということを知らず、無愛想で、皮肉っぽく、時には、まったく冷淡なその態度は、どんなに環境が変わっても全然影響されるようすがない。六十六歳という年齢にもかかわらず、時おり辛い場面に出会ってもついぞ泣き言を洩らさなかった。わたしは彼がこの探検に加わったことを内心厄介に思っていたが、実際にはわたし自身にも劣らない忍耐力の持主であることを認識した。性格的にはいうまでもなく辛辣な懐疑派である。チャレンジャー教授はまちがいなくペテン師であり、われわれはばかげた、無駄骨折りに乗りだしてしまったのだから、南アメリカでは失望と危険にさらされ、イギリスでは世間一般の笑いものにされるだけだという信念を、最初から隠そうともしなかった。彼はむきになって痩せた顔をゆがめ、まばらなやぎひげをふりたてながら、サウサンプトンからマナウスまで終始このことばかり言いつづけたのである。しかし上陸以来周囲の昆虫や鳥類の美しさと多様性から、ある程度の慰めを得るようになった。科学への情熱だけは、疑いもなく本物なのである。
昼間は銃と昆虫網を持って森の中をとびまわり、夜は採集した無数の標本の整理に没頭している。小さな癖はいろいろあるが、中でも服装に無関心なこと、不潔なこと、時おり放心状態におちいること、煙草好きで短いブライヤーのパイプを四六時中くわえていることなどが目立つ。若いころ何度か科学探検隊に参加した経験もあり(ロバートソンのパプア島探検にも加わった)、野営やカヌーも別に珍しくはないらしい。
 ジョン?ロクストン卿にもサマリー教授と共通するところはあるが、ほかの点では正反対と言っていい。年齢は二十歳も下だが、痩せて骨ばった体つきは教授によく似ている。
容貌については、ロンドンに残してきた手記の一部でたしか説明したと思う。彼は極端に几帳面きちょうめんで清潔好きときており、常に綾織あやおりの白いスーツを一分の隙もなく着こなして茶の長靴をはき、少なくとも一日一回はひげを剃る。行動派の例に洩れず口数が少なく、いつも自分の考えを追っているが、質問に答えたり会話に仲間入りするときは反応がすばやく、風変わりでユーモラスな言葉で人を笑わせる。彼の世界知識、とりわけ南アメリカに関する知識の深さは驚くほどで、この旅行の成功をかたく信じており、サマリー教授の嘲笑にもたじろぐようすはない。話し方も態度も穏かだが、その輝く青い目の底にはすさまじい怒りと断固たる決意がひそんでいる。ふだんは手綱をひきしめているだけに、いったんそれが爆発したときの威力は恐るべきものである。ブラジルおよびペルーでの功績についてはめったに話さないが、彼を自分たちの守護者のような目で眺める川ぞいの原住民たちの喜びようは、わたしにとっても予想外だった。原住民が赤い酋長レッド?チーフと呼ぶ彼の功績は、彼らの間では伝説になっているが、わたしが知りえたかぎりでも、まさに驚くべき事実だった。
 今から数年前、ジョン卿がペルー、ブラジル、コロンビア三国のあいまいな国境線にはさまれた無人地帯を訪れたときのことである。この広大な地域には野生のゴムの木が茂り、コンゴの場合と同じように、土民たちにとっては、昔ダリエンの銀山でスペイン人に監視されながら強制労働に従ったころに匹敵するわざわいの種となった。一握りの悪い混选」ペイン人が国を支配し、手下のインディアンに武器を与え、ほかの者を奴隷に仕立てて、ゴムを採集し川を下ってパラまで輸送する非人道的な苦役を強制していた。ジョン?
ロクストン卿はこのあわれな犠牲者たちのために支配者たちをいさめたが、結果は無駄骨で、脅迫と侮辱を受けただけだった。そこで奴隷監督の親王であるペドロ?ロペスに正式に宣戦布告し、逃亡奴隷の一団を組織して武器を与え、作戦を指揮したすえ、ついにこの悪名高き混选」ペイン人をみずからの手で殺して彼の組織を壊滅させた。
 やわらかい声で話すこののんびりした態度の赤毛の男が、アマゾンの川ぞいでは深い興味をもって眺められていたとしても不思議ではない。もっとも、彼によって呼びおこされる感情には、当然のことながら土民の感謝とそれに劣らず激しい搾取階級への怒りが混り合っていた。彼のかつての体験から得られた利点の一つは、ブラジル全土で通用している、ポルトガル語一、インディアン語二の割合で混った特殊なヘラル語を自由自在に話せることだった。
 ジョン?ロクストン卿が南アメリカ気ちがいであることは前にも述べた。彼はきわめて情熱的にこの偉大な国を語るのだが、その情熱は伝染性のものらしく、何も知らないわたしの関心をとらえ、好奇心を刺激した。彼の話の魅力を再現することはとてもできそうにない。正確な知識と生々しい想像力が結びついた独特の語り口は、ついにサマリー教授の痩やせた顔からも皮肉で懐疑的な冷笑を消してしまったほどである。この巨大な川がかくも急速に探検されながら(ペルーの征服者たちは、事実この川伝いに全大陸を横断した)、常に変貌してやまない両岸の背後に横たわるものは、結局何一つわかっていないと、川の歴史を語ってくれもした。
「あすこに何があると思う?」彼は北のほうを指さして叫ぶ。「森と沼地と人跡未踏のジャングルだ。そこに何が棲すんでいるかはだれにもわからない。南には何がある? まだ白人が行ったことのないじめじめした森だ。周囲はどっちを向いても未知の世界ばかりなのだ。狭い川の部分をのぞけば、ほかに何がわかるだろうか?この国でありうることとありえないことのちがいを知っている人間などいやしない。チャレンジャー教授がまちがっているなどと、だれが断言できるだろうか?」この直接のあてこすりに、サマリー教授はふたたび頑固な冷笑をとり戻して、小さなブライヤーのパイプのもうもうたる煙のかげで、無言のうちに承服しがたく首をふりながら坐っている。
 
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