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七 明日は秘境に入る(2)

时间: 2024-07-30    进入日语论坛
核心提示: ひとまずこのへんでやめておこう。わが二人の白人同志は、わたし自身もそうだが、いずれこの手記が先きへ進むにつれて、その性
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 ひとまずこのへんでやめておこう。わが二人の白人同志は、わたし自身もそうだが、いずれこの手記が先きへ進むにつれて、その性格と能力をもっとはっきり表わすようになるだろう。すでにわれわれは何人かの従者を傭い入れてある。彼らもやがてはわれわれに劣らず重要な役割を果たすことになるだろう。一人はサンボという大男の黒人で、これは馬のようによく言うことをきき、頭もよい黒いヘラクレスだ。われわれはパラの汽船会社の推薦で彼を傭った。サンボはこの会社の船で働いているうちに、片言の英語をおぼえたのだ。
 上流からアメリカ杉の荷を運んできた混血のゴメスとマヌエルも、同じくパラで傭った。この二人もひげをはやした猛々たけだけしい黒人で、プーマのようにすばしこくしなやかだった。われわれがこれから探検するアマゾンの上流育ちであることに目をつけて、ジョン卿が彼らを傭う気になった。二人のうちゴメスのほうは流暢な英語が話せるというもう一つの利点をそなえていた。この三人は一か月十五ドルの手当てで、召使、料理番、漕こぎ手を兼ね、そのほかどんな用事でも引き受ける約束だった。このほかわれわれは、川ぞいの部族の中で魚釣りと船を操ることにかけては一番腕のたしかな、ボリビアのモーホー族の男を三人傭い入れた。彼らの頭株は部族の名をとってモーホーと呼ぶことにし、ほかの二人はそれぞれホセ、フェルナンドと名付けた。こうして三人の白人、二人の混血、一人の黒人、三人のインディアンからなる小規模な探検隊は、奇妙な調査に出発すべく指示を待ってマナウスで待機していた。
 退屈な一週間がすぎて、ついに指定の日時がやってきた。マナウスの町から二マイルほど奥に引っこんだところにあるショートマン氏のサンタ?イグナシオ館の、日よけをおろした居間を想像していただきたい。窓の外のギラギラ照りつける黄色い日ざしの中には、シュロの木がそれ自身に劣らず黒い、くっきりした影を落としている。静かな周囲の空気には、はてしない昆虫のうなり声が満ちている。眠気をもよおすような低い蜂はちの羽音から、キィーンというようなかん高い蚊かの羽音まで、何ァ’ターヴにもおよぶ熱帯特有のコーラスだ。ヴェランダの向こうには森を切りひらいた狭い庭があって、サボテンの生垣いけがきに囲まれ、花盛りの茂みで飾られている。花のまわりでは大きな青い蝶ちょうや小さなハチドリが、ひらひらとびまわったり、火花のように弧を描いてさっと舞いあがったりする。室内のわれわれは、封筒ののっている籐のテーブルを囲んで坐っていた。
封筒の表にはチャレンジャー教授の角ばった筆蹟で、つぎのような注意が書かれていた。
『ジョン?ロクストン卿一行への注意事項。七月十五日正午、マナウスにて開封すべし』 ジョン卿はテーブルの上に自分の時計を置いた。
「まだ七分ある」彼は言った。「教授もずいぶん几帳面な人だな」 サマリー教授が痩せた手で封筒を持ちながら、皮肉な笑いを浮かべた。
「今すぐ開封しようが七分後だろうがどうというちがいはあるまい」彼は言った。「これだってあの男のもったいぶった無意味なやり口の一部にすぎんさ」「しかし、約束は約束です」と、ジョン卿、「主役はあくまでもチャレンジャー教授であって、われわれは彼の好意でここまでこられたのだから、指示にそむいて開封するのはほめられたことじゃない」「ごりっぱなことだ!」教授は苦りきって叫んだ。「ロンドンにいるときからばかばかしいと思ってはいたが、時がたつにつれてなおのことそう思えてきた。この手紙に何が書いてあるかは知らんが、少しでもあいまいな点があったら、わしはつぎの船で川を下ってパラで『ボリビア号』に乗ってしまいたいくらいだ。考えてみれば、わしには気ちがいの主張をやりこめるために走りまわるよりもっと大事な仕事がある。さて、ロクストン君、どうやら時間のようだよ」「そのようだ」と、ジョン卿、「ひとつ笛でも吹いたらいかがです」彼は封筒を持ちあげてペンナイフで開封した。折りたたんだ一枚の紙を取りだして、注意深くテーブルの上に拡げた。ただの白紙だった。裏を返してみたが、やはり何もない。われわれは当惑して顔を見合わせた。やがてその沈黙はサマリー教授の調子はずれな嘲笑によって破られた。
「これはインチキを白状したも同然だ」彼は叫んだ。「これ以上の証拠は必要ない。あのペテン師め、とうとうかぶとを脱ぎおった。あとは帰国して彼の詐欺師さぎしぶりを天下に公表するだけだ」「あぶりだしインクじゃないですか?」とわたしは言った。
「まさか!」と言いながらも、ロクストン卿は紙を陽にかざしてみた。「自分をごまかしてみてもはじまらんよ、きみ。この紙には最初から何も書かれなかったのだ、ぼくが保証するよ」「おじゃましていいかね?」と、ヴェランダのほうから大きな声が響いてきた。
 だれも気がつかない間に、ずんぐりした人影が陽のあたった庭に忍びこんでいたのだ。
あの声! あの幅広い肩! われわれが驚いて口もきけずにとびあがったとき、丸い、あざやかなリボンのついた子供っぽい麦わら帽をかぶったチャレンジャーが、両手をポケットに入れ、ズック靴を一足ごとに気どって上に向けながら目の前の空地に姿を現わした。
彼は顔を上向きかげんにして、アッシリアふうのりっぱなひげと、もって生まれた尊大なまぶたと意地の悪い目を、金色の光の中に浮かびあがらせながら立っていた。
「どうやらほんのちょっと遅かったようですな」彼は時計を見ながら言った。「この封筒を渡したとき、実を言うと、諸君にそれを開封させるつもりはなかった。指定の時間前に自分で現われるつもりだったからね。不幸にして未熟な水先案内人と邪魔っけな砂洲のせいで到着が遅くなってしまった。おかげでサマリー教授あたりに、だいぶ悪口を言われたのとちがいますかな?」「正直言って」ジョン卿はいくぶん非難を含んだ声で言った。「あなたが姿を現わしてくれたのでほっとしましたよ。いくらなんでもこれじゃ任務の終わるのが早すぎますからね。もっとも、なぜこんな不可解な真似をするのか、いまだに納得はできませんがね」 チャレンジャー教授は答えるかわりに室内へ上がりこみ、わたしやジョン卿と握手をかわした。サマリー教授には重々しい尊大さをただよわせて会釈したあと、柳枝製の椅子にどっかと腰をおろした。椅子はチャレンジャーの重みでギシギシ軋きしんだ。
「出発準備はできているかな?」と、彼はたずねた。
「明日なら発てます」
「ではそうしよう。わしという申し分のない案内人がいる以上、もう地図の必要はない。
そもそもわしは最初からこの調査の指揮をとるつもりだった。今にわかるだろうが、どんなに詳しい地図でも、わしの情報と案内にはかなうまい。わしが小細工をろうした封筒の一件だが、ああでもしなかったら、諸君と一緒に出発することを強要されて、不愉快な思いをしていたことだろう」「わしは一緒の旅などごめんこうむるよ!」とサマリー教授がいきまいた。「大西洋を渡るほかの船があるかぎりはな!」 チャレンジャーは毛むくじゃらの手をふって彼をあっさり片づけた。
 
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