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十 不可思議な事件(2)

时间: 2024-07-30    进入日语论坛
核心提示:「考えられるのは一つだけだ。ここを発見した開拓者の名をとって、メイプル?ホワイト台地としよう」 メイプル?ホワイト台地の名
(单词翻译:双击或拖选)
「考えられるのは一つだけだ。ここを発見した開拓者の名をとって、メイプル?ホワイト台地としよう」 メイプル?ホワイト台地の名前が、わたしの仕事になっていた例の地図に書きこまれた。きっと将来の地図にもこの名前が現われることだろう。
 メイプル?ホワイト台地の安全な調査こそ、つぎにとりかかるべき問題だった。この土地には未知の動物が棲んでいることを、すでにわれわれはこの目で確かめているし、さらにメイプル?ホワイトのスケッチブックはもっと恐ろしく危険な動物が現われる可能性を示していた。また、竹で串刺しになった骸骨の存在が、兇暴な人間の住んでいることを想像させる。台地の上から突きおとされたのでなければ、あんなところに死体があるはずはなかった。こんな場所で脱出の手段もなく閉じこめられたわれわれの立場は、明らかに危険にみちており、われわれの理性はジョン卿の経験が教える用心をすべて必要と認めた。
だが心は一刻も早く出発してこの世界の中心部まで行きたいとうずうずしているとき、それを抑えて入口にとどまることはとてもできそうになかった。
 そこでとげのある枝で防御柵の入口をふさぎ、食糧物資を完全に囲っておいてここを出発した。砦の近くの泉から流れだした小川にそって、ゆっくりと慎重に未知の世界へ分け入った。この川は砦へ帰るときの恰好の道しるべだった。
 出発後間もなく、不思議なものがわれわれを待ちうけている痕跡にぶつかった。まず深い森の中を数百ヤード進んだ。森にはわたしの見たこともない木がたくさんあったが、一行の中では植物通であるサマリーが、下界ではとっくに消滅した松柏科およびソテツ科の植物だと判定を下した。やがてわれわれは小川の幅が拡がり、かなり大きな沼になっているあたりにさしかかった。前方にはトクサまたはスギナモと呼ばれるらしい丈の高いアシの珍種が生い茂り、その間にヘゴの木が点在して風に揺れていた。先頭を歩いていたジョン卿が急に片手をあげて立ちどまった。
「これを見てください。きっと全鳥類の祖先の足跡にちがいない!」 目の前の地面には巨大な三本指の足跡がしるされていた。足跡の主がなんであれ、それは沼地を横切って森の中へ入っていったのだ。われわれは立ちどまってこの途方もなく大きな足跡を調べた。もしこれが鳥の足跡だとしたら――ほかの動物がこんな足跡を残すわけがない――ダチョウよりもはるかに大きいことから判断して、途方もない巨体が想像される。ジョン卿は用心深く周囲を見まわして象射ち銃に弾丸を二発こめた。
「名狩猟家の面目にかけて断言するが、この足跡はまだ新しい。まだ十分とたっていません。ほら、この深い足跡にまだ水がしみだしているでしょう! 絶対にまちがいない!
やや、小さい足跡もあるぞ!」
 なるほど同じ形の小さな足跡が大きいのと平行してつづいている。
「しかしこれをどう思う?」サマリー教授が三本指の足跡の間にある、五本指の巨人の足跡のようなものを指さして、勝ちほこるように叫んだ。
「ウィールドだ!」チャレンジャー教授が有頂天になって叫んだ。「ウィールド地層でこれと同じものを見たことがある。三本指の足で直立歩行をするが、ときどき五本指の前足の片方だけ地面につく動物だ。鳥ではないよ、ロクストン君、鳥ではないよ」「すると、四足獣?」「いや、爬虫類だ、恐竜だよ。こんな足跡を残すものは恐竜だけしかない。それは九十年前にサセックスのあるりっぱな医者をさんざん悩ませたものだが、こんなところで生きた恐竜にお目にかかろうなどと、だれが予想したろう」 チャレンジャーの声がしだいに小さくなっていき、われわれは茫然として立ちどまった。足跡をたどっているうちに、沼地からはなれた茂みと森を通り抜けて外へ出てしまったのだ。今目の前に拡がる空地には、生まれてはじめて見る奇異な動物が五頭もいた。われわれはやぶの中にしゃがみこんで、心ゆくまでそれを観察した。
 今五頭と言ったが、そのうち二頭だけが大きくて残る三頭はまだ子供だった。とてつもなく大きい。赤ん坊でさえ象ぐらいの図体だから、親のほうは比較するものがない。トカゲのようなうろこ状の石板色の皮膚ひふにおおわれ、陽の当たったところはぬめぬめと光っている。五頭とも地面に坐って幅の広い強そうな尾と巨大な三本指の後足でバランスをとり、五本指の小さな前足で木の枝を引っぱって若葉を食べていた。この動物の姿を正確に伝えるにはどう言ったらいいかわからないが、体長が二十フィートもあり、黒いワニのような皮膚を持つカンガルーの化物とでもいえばおおよその想像はつくだろう。
 どれぐらいの間この不思議な光景を身じろぎもせずに眺めていたろうか。強い風がわれわれのほうに向かって吹いていたし、茂みの中にすっぽり隠れているから、発見されるおそれはまずなかった。ときおり子供たちが親のまわりを不器用にはねまわって遊んでいた。巨大な体が空中にとびあがり、地ひびきをたてて地面におりてきた。親たちには想像を絶するような力があるらしく、かなり高い木の葉にとどかないと見るや、太い幹に前足をかけてまるで若木でも倒すように易々と引き倒してしまった。この動作を見ながら思ったのだが、筋肉がものすごく発達している反面、脳みその発達はひどくおそまつらしかった。というのは、重い木が頭に倒れてきたとき、忍耐力に限度があるらしくて、つづけざまに鋭い泣き声を発したからである。この事件で危険な場所に長居は無用と考えたのだろうか、配偶者と三頭の大きな子供を従えて、ゆったりした足どりで森の中へ逃げこんでしまった。しばらくは木の幹の間に石板色に光る皮膚と、茂みの上で揺れる頭が見えていたが、やがてそれも視界から消えた。
 わたしは同志三人の顔をふりかえった。ジョン卿は象射ち銃の引き金に手をかけて狙いを定め、狩猟家らしく目を光らせていた。ァ‰バニーの居心地よい部屋の、マントルピースの上に組合わせた二本のオールの上にこいつの首を飾るためなら、彼はどんなものだって惜しいとは思わないだろう。だが彼の理性が引金を引かせなかった。なにしろこの秘境の不思議をくまなく探検できるかどうかは、ひとえにこちらの存在を隠しておくことにかかっていたからである。二人の教授は言葉もなく至福を味わっていた。興奮のあまり無意識のうちに手を握り合って、チャレンジャーはふくらませた頬に天使のような微笑をうかべ、一方サマリーは皮肉な顔を一瞬驚嘆と畏敬でなごませながら、まるで不思議なものを見た二人の子供のように突っ立っていた。
 
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