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十一 このときだけはわたしも英雄(3)

时间: 2024-07-30    进入日语论坛
核心提示: われわれは多くの小さな動物を見た。ヤマアラシ、鱗におおわれたアリクイ、長いそりかえった牙のある白黒まだらの野生のブタな
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 われわれは多くの小さな動物を見た。ヤマアラシ、鱗におおわれたアリクイ、長いそりかえった牙のある白黒まだらの野生のブタなどである。一度、木立ちの切れたところで、かなり前方に緑色の丘の肩をはっきりと見た。そこを横切ってこげ茶色の動物が相当のスピードで走りすぎた。一瞬の出来事だったので、その正体を確かめることはできなかったが、もしジョン卿の言うように鹿だったとすれば、わたしの故郷の沼地から時おり掘り出される巨大なアイルランド?ァ 》カにも劣らない大きさだったことは間違いない。
 謎の訪問者がキャンプを訪れて以来、われわれはいつもある懸念を抱いてそこへ帰るようになった。しかしこの日は何も異常がなかった。その夜われわれは現在の状況と将来の計画を論じ合った。その内容をある程度詳細に説明しておく必要がある。というのは、それによって新しい出発の手がかりをつかんだのだが、おかげでメイプル?ホワイト台地については、何週間もかかって手に入れるものよりいっそう完全な知識を得ることができたのだから。口火を切ったのはサマリーだった。彼は一日中不機嫌だったが、翌日の行動予定に関するジョン卿の発言が、ついに彼の癇癪かんしゃくを爆発させた。
「今日にしろ明日にしろ、いつでもそうだが、要するにわれわれのなすべきことは、この罠わなから逃げだす方法を探すことだと思う。ところが諸君はこの台地に深入りすることにしか目を向けておらん。われわれは脱出計画をたてるべきだと思うがな」「これはまた心外ですな」チャレンジャーが堂々たるひげをなでながらどなった。「科学者ともあろうものがこのような不名誉な感情を口にするとは。今きみのいる場所は、有史以来例を見ないほどの魅力で、野心的な博物学者を惹きつける場所なのですぞ。ところがきみはこの土地あるいはそれが内包するものについて、きわめて皮相な知識しか手に入れないうちに、早くも逃げだすことを考えている。わしはきみを見そこなったよ、サマリー教授」「断わっておくが」と、サマリーが気むずかしく答えた。「わたしはロンドンで大勢のクラスを抱えている。今はそれを無能な代理講師の手にまかせてある状態なのだ。ここがきみとわたしの違いだよ、チャレンジャー教授。わたしの知る限り、きみは責任ある教育の仕事を与えられたことがなかったはずだからね」「その通りだ」と、チャレンジャーも負けていない。「高度の独創的な研究能力を、より卑少な目的に向けるのは一種の冒涜だというのがわしの持論だからな。教育界に地位を提供されても、頑として断わりつづけてきた理由はそれだよ」「ほう、例えばどんな地位を?」と、サマリーがからかい口調でたずねた。がジョン卿が急いで話題を変えた。
「率直に言って、この台地についてもっとよく知る前にロンドンへ帰るというのは、非常に残念なことだと思います」「わたしも社の奥の部屋へ入っていって、マッカードルに合わせる顔がありません」と、わたしも言った。(わたしの率直さを大目に見てくれるでしょうね?)「彼はこんな中途はんぱな記事を書いたわたしを決して許さないでしょう。それに、どっちみち下界へ降りたくても降りられないんだから、わたしに言わせれば議論をしても無駄ですよ」「この若い友人の頭は明らかに隙間だらけだが、一種の素朴な良識がそれを十分埋め合わせているようだ」と、チャレンジャーが言った。「彼の嘆かわしい職業上の利害はわれわれにとっては取るに足らないものだ。しかし、彼も言うように、いずれにせよ脱出方法はないのだから、議論してみてもエネルギーの浪費というものだろう」「何をやってもエネルギーの浪費に変わりはない」と、サマリーがパイプをくわえたままでどなった。「それよりもわれわれは、ロンドンの動物学会で委任された明確な任務を果たすためにここへやってきたということを思いだしていただきたい。その任務とはチャレンジャー教授の発表の真偽を確かめることだった。われわれは今彼の発言を支持すべき立場にあることを認めざるを得ない。したがってわれわれの一応の任務は終わったのだ。この台地で探求さるべき詳細について言えば、それはあまりにも大きすぎて、特殊装備のととのった大規模な探検隊でなければとても手に負えそうもない。もしわれわれ自身がそれを企てたとすれば、すでに得た重要な科学上の成果もろとも、二度とふたたびイギリスへ帰れないという事態も十分考えられる。チャレンジャー教授は、一見侵入不可能と見えたこの台地に、われわれを運びあげる方法を考えついた。われわれはふたたび彼の天才に訴えて、なんとか下界へ降りる方法を考えてもらうべきだと思う」 正直なところサマリーの意見を聞いているうちに、それがまったく妥当なように思えてきた。チャレンジャーでさえ、もし自分の発表の裏付けが疑いを抱く人々のもとまで達しなければ、敵を論破することはできないということを考えて、かなり心を動かしていた。
「台地から降りるという問題は一見とてつもない難問のように見える」彼は言った。「しかし、頭を使えばおそらく解決できる。メイプル?ホワイト台地に長居は無用、間もなく帰国の問題に直面せねばならないという諸君の意見に、わしは同調する用意がある。しかしながら、少なくともこの台地をひととおり探検し、地図を作って持ち帰るまでは、絶対にこの場所をはなれるつもりはない」 サマリー教授が気短かに鼻を鳴らした。
「すでに二日もかかって探検しているが、台地の地理に関するわれわれの知識は最初にくらべて少しも進歩していない。わかったのはいたるところ深い森におおわれており、その中に分け入って各部分のつながりを明らかにするのに数か月はかかるだろうということだけだ。中央に高い山でもあれば話は別だが、これまで見たかぎりでは逆に中央部に向かって低くなっている。つまり奥へ入れば入るほど全体の見通しがつかなくなるということだ」 わたしの頭に霊感がひらめいたのはまさにこのときだった。たまたまわたしの目が頭上の大枝を拡げるイチョウの木の節ふしくれだった太い幹にとまった。幹の太さが他を圧しているとすれば、高さもきっとそうに違いない。台地の周辺が一番高くなっているとしたら、この大木は台地全体を展望する絶好の見張所になるのではないか? ところで、わたしは故郷のアイルランドで走りまわっていた腕白小僧時代から、木登りには自信がある。
岩登りでは人に遅れをとるとしても、木登りなら絶対に負ける気づかいはない。一番低い枝に足さえかかれば、あとはてっぺんまで登れないのが不思議なくらいだ。仲間はわたしの思いつきを聞いて喜んだ。
「マローン君は軽業師かるわざしのような真似ができるという」チャレンジャーが赤いりんごのような頬をふくらませて言った。「形だけは堂々としていても、もっと体の固い人間にはとうていできないことだ。わしは彼の決心に拍手をおくりたい」「なるほど、すばらしい思いつきだ!」ジョン卿がわたしの肩を叩いた。「なぜ今までそれを思いつかなかったんだろう! 日が暮れるまであと一時間足らずしかないが、ノートを持っていけば台地の大まかなスケッチぐらいはとれるだろう。弾薬箱を枝の下に三つ重ねれば、簡単に枝まで押しあげられそうだ」 彼は箱の上に立って、木の幹に向かったわたしを静かに持ちあげた。そのとき、チャレンジャーがとびだしてきていかつい手で一突きしたので、わたしの体はあっさり枝までとびあがった。両手で枝にしがみつき、足で激しく蹴けるうちに、まず胴体が、ついで膝が枝の高さまで持ちあがった。頭の上にちょうど梯子のような具合になった手頃な横枝が三本と、もつれ合った具合のいい枝があったので、どんどん上のほうへ登った結果、間もなく葉にさえぎられて地面が見えなくなった。ときどき障害物にぶつかって、一度など蔓草にぶらさがって八フィートから十フィートも登らねばならなかったが、概して調子よく登り、チャレンジャーのドラ声もはるか下方へ遠ざかった。しかし木は途方もない大きさで、上を見あげてもいっこうに枝が細くなるようすはなかった。途中厚い茂みになったヤドリギのようなものに突き当たった。それによじのぼり、顔をまわして向こう側に何があるか見ようとしたとき、わたしは驚きと恐ろしさのあまり、もう少しで木から落ちるところだった。
 
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