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十三 忘れえぬ光景(1)

时间: 2024-07-30    进入日语论坛
核心提示:十三 忘れえぬ光景 陽が落ちて憂鬱な夜が訪れるころ、わたしは眼下の広漠とした平原にぽつんと浮かぶインディアンの姿を見た。
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十三 忘れえぬ光景
 陽が落ちて憂鬱な夜が訪れるころ、わたしは眼下の広漠とした平原にぽつんと浮かぶインディアンの姿を見た。われわれの唯一のかすかな希望であるその姿は、夕陽に照らされて,バラ色に染まりながら、はるか彼方の川とわたしの間に立ちのぼる夕べの霧の中へやがて消えていった。
 ようやく踏み荒されたキャンプへ帰るころ、陽はとっぷり暮れていた。わたしが最後に見たものは、眼下の広々とした世界の一点に浮かぶサンボの焚火の赤い光だったが、それはわたしの暗い心の中に忠実なサンボの存在が投じる一点の光明を象徴しているかのようだった。それでもこの破壊的な不幸に見舞われて以来、わたしははじめて幸福な気持になっていた。世界はわれわれのなしとげたことを知るだろうから、最悪の場合肉体は滅んでも名前だけは残り、われわれの功績を後世に伝えてくれるという確信があったからである。
 不幸に襲われたキャンプで眠るのは恐ろしいが、ジャングルの中はなおさら不安である。いずれにせよどちらかを選ばなくてはならぬ。用心深さが眠らずに警戒することを要求する一方で、疲労しきった肉体がそんなことはとても無理だと主張する。巨大なイチョウの木の大枝にのぼってみたが、すべすべした樹皮がいかにも危っかしく、うつらうつらしはじめたとたんに地面に転落して首の骨を折ってしまいそうだった。仕方なく木から降りて、どうすべきかと思い迷った。とうとう防柵の扉を閉ざして三角形の頂点に三つの焚火をつくり、たらふく夕食を詰めこんでから深い眠りについた。やがて奇妙な歓迎すべき目ざめが訪れた。明け方、一本の手に腕をおさえられ、びくっとしてあわててライフルを手探りしながら立ちあがりかけたとき、わたしは冷たい朝の光の中でかがみこんだジョン卿の姿を発見して喜びの叫びをあげた。
 それはまぎれもないジョン卿でありながら、同時に別人のようでもあった。わたしがキャンプを抜けだしたときの彼は、落ちついて礼儀正しく、服装もきちんとしていた。今日の前にいる彼は顔色蒼ざめ、目に荒々しい光をたたえ、長い距離を全力で走ってきた人間のように激しく息をはずませている。やつれはてた顔は傷だらけで血がにじみ、服はボロボロに破れてたれさがり、帽子は頭から消えてしまっている。わたしは驚いてまじまじと眺めたが、彼は質問する暇も与えなかった。話しかけながらも手は休みなく荷物をかき集めている。
「急ぐんだ、マローン!」彼は叫んだ。「一刻一秒を争うんだ。ライフルを二梃持ってくれ。ぼくが残りの二梃を持つ。それから薬莢をできるだけ多く集めてポケットに詰めこむんだ。それと食糧を少々頼む。罐詰が半ダースもあればいいだろう。それで結構! 話しかけたり考えたりしている暇はない。すぐ出発しないと助からんぞ!」 なかば夢心地で何事がおこったのか見当もつかなかったが、とにかく両脇にライフルを抱え、両手にさまざまな物資を持って、彼のあとから、夢中で森の中へ駆けこんだ。彼はやぶの中を見え隠れしながら、やがて深い灌木の茂みにたどりついた。いばらをものともせず、その中へとびこみ、まん中に坐りこんでわたしを引き寄せた。
「さあ、ここなら安全だろう」彼はあえぎながら言った。「やつらは必ずキャンプを襲ってくる。まずそれを考えるだろう。だがキャンプが空っぽなんでとまどうだろう」「いったいなんのことです?」と、ようやく呼吸をととのえてわたしがたずねた。「教授連はどこです? それから、だれに追われているんですか?」「猿人だよ。まったく、なんというやつらだろう! 大声は禁物だよ、やつらは耳が鋭いんだから――目も鋭いが、わたしの判断では鼻はそれほどきかないようだ。おそらくわれわれの居場所を嗅かぎつけはしないだろう。ところで、きみはいったいどこへ行ってたんだ? ま、いなくて幸いだったがね」 わたしは手短かに自分の体験を語った。
「そいつは気の毒だったな」と、わたしが恐竜に追いかけられて穴に落ちたことを聞いたとき、彼は言った。「安静療法向きの場所じゃないことは確かだと思うが、きみはどうだい? とにかくあの悪魔のようなやつらにつかまるまでは、何がなんだかまるで見当もつかなかった。昔ニューギニアの人喰人種につかまったことがあったが、ここのやつらにくらべたらチェスターフイールド一族の貴族みたいなもんだ」「どんなふうにはじまったんです?」「明け方だった。教授たちはそろそろ活動を開始するころだが、まだ議論ははじまっていなかった。突然猿の雨が降ってきたね。まるでリンゴの実がバラバラと木から落ちるようなぐあいさ。暗いうちにあそこへ集まっていたのだが、そのうちあの大きな木がやつらの重みに耐えきれなくなったのだろう。ようやく一人だけ腹に弾丸をぶちこんだが、何がなんだかわからないうちにあおむけに押えつけられてしまった。猿といったが、連中は棒や石を持ち、おたがい同士わけのわからぬ言葉で意志を通じ合い、最後には蔓でわれわれの手足を縛りあげた。わたしが数度の探検でお目にかかったいかなる動物よりも進化していることは確かだね。猿人というかミッシング?リンクというか、やつらの正体はそれだよ。あんなものは失われたミッシングままでいればよかったんだ。傷ついて豚のように血を流している仲間を運んでいってから、われわれのまわりに坐りこんだ。氷のような殺意というものがあるとすれば、やつらの顔に浮かんだ表情がまさにそれだった。大きさは人間なみで、腕力ははるかに強い。赤いふさふさした毛の下で一風変わったガラス玉のような灰色の目を光らせながら、いつまでも坐ったままでわれわれを眺めているんだ。チャレンジャーは臆病者ではないが、その彼でさえいささかたじろいでいた。身をよじってどうやら立ちあがり、いっそひと思いに殺せとやつらに叫んだ。彼もあまり突然のことなんで頭がどうかしてしまったらしく、まるで気ちがいのように荒れくるって悪態をつくんだ。
相手がお気に入りの新聞記者だとしても、あれ以上に下品な言葉はわめき散らせないだろうな」「で、そいつらはどんな反応を示したんですか?」わたしはジョン卿が小声でささやく不思議な話にすっかり心を奪われていた。その間彼は鋭い目つきで四方八方を見まわし、打金をおこした銃を握りしめたままだった。
 
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