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十三 忘れえぬ光景(4)

时间: 2024-07-30    进入日语论坛
核心提示: 広い空地が目の前に横たわっている――はしからはしまで数百ヤードはあるだろう。緑の芝生と丈の低いワラビが崖のふちまではえ
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 広い空地が目の前に横たわっている――はしからはしまで数百ヤードはあるだろう。緑の芝生と丈の低いワラビが崖のふちまではえている。この空地のまわりに半円型に木が立ち並び、葉で作った奇妙な小舎がいくつも枝の間に重なっている。一つ一つの巣が小さな家になっている安ぶしんのアパートとでも言えば一番よくわかってもらえるかもしれない。小舎の入口や木の枝には猿人たちが鈴なりになっているが、体の大きさから判断して一族の女子供らしい。その連中が画面の背景にいて、われわれを夢中にさせると同時にとまどわせた光景を、やはり熱心に眺めている。
 崖のふちに近い空地には、およそ百人ばかりのもじゃもじゃした赤毛の動物が集まっている。大部分は巨大で、みな見るからに恐ろしそうな顔つきをしている。彼らの間にはある種の規律があるらしく、だれ一人列を乱すものがいない。列の前には数人のインディアンが立っている――小柄で、つるつるの手足をした肌の赤い連中だ。強い太陽光線の中で、その肌が磨きあげたブロンズのように輝いている。そのわきに長身の白人が立って首うなだれ、腕を組み、恐怖と落胆を全身で示している。サマリー教授の骨ばった体は見間違えようがない。
 この哀れな捕虜の群の前とまわりに数人の猿人がいて厳重に見張り、逃亡を不可能にしている。やがて、ほかの連中からはなれた崖のふちに、場合が場合だけに笑うこともできないが、まことに奇妙で滑稽な二人の人物が現われてわたしの注意をひきつけた。一人は仲間のチャレンジャー教授である。上着の残骸はまだ肩にかかっているが、シャツはすっかり引き裂かれ、偉大なひげが厚い胸をおおう黒いもじゃもじゃの毛とからみ合っている。帽子もなくしてしまったらしく、探検旅行の間にのび放題になった長い髪の毛が、ほつれにほつれて風になびいている。わずか一日にして近代文明の高度の産物が南アメリカで最も野蛮な人種に早変わりしてしまったらしい。彼の脇に、猿人の王である支配者が立っている。ジョン卿の言葉通り、色が黒くなく赤い点だけをのぞけば、あらゆる点でチャレンジャーに生き写しだ。ずんぐりして背の低い体格、どっしりした肩、だらりとたれさがった長い腕、胸毛とからみ合ったかたいひげ、どこをとっても瓜二つである。ただ眉毛の上だけは、猿人のほうの額が後退してすぐ彎曲した頭部につづいているのに反して、チャレンジャーのそれがヨーロッパ人らしい広い額と巨大な頭の鉢になっている点だけが、鋭い対象を示してだれの目にも明らかな相違点となっている。その他の点では、チャレンジャー教授の滑稽なパロディが猿人の王である。
 以上長々と述べてきたが、実際はわずか数秒間の印象にすぎない。それからまったく別のことを考えなければならなかった。めざましいドラマがはじまったのである。二人の猿人が捕虜の中から一人のインディアンを選びだして、崖のふちまで引きずっていった。王が合図の片手をあげた。猿人はインディアンの手足を持って、物すごい力で三度前後にふりまわした。それから、驚くべき怪力をふるって犠牲いけにえを高々と持ちあげ、崖の向こうへ投げとばした ∽牲は最初上にとびだし、それから放物線を描いて落下していった。インディアンが視界から消えると、見張りをのぞく見物人の全員が崖のふちに走り寄る。長い沈黙を時おり狂ったような喜びの声が破る。やがて長い毛むくじゃらの手を突きあげ、興奮した叫びを発しながらそこら中をとびはねる。それが終わると崖のふちから戻ってふたたび整列し、つぎの犠牲を待つのだ。
 つぎはサマリーの番だった。二人の見張りが彼の手首をつかんで乱暴に前へ引きだした。痩せた長い手足が鶏舎から引きだされたニワトリのようにもがいている。チャレンジャーが王のほうを向いて夢中で手をふりはじめた。仲間の命を助けてくれと懸命に哀願しているのだ。しかし猿人は彼を押しのけて首を横にふった。それが彼の最後の意識的な動作となった。ジョン卿のライフルが唸うなり、猿人の王は赤いぼろきれのように地面に横たわった。
「人ごみを狙って射て! 射ちまくるんだ!」と、ジョン卿が叫んだ。
 ごくありふれた人間の魂にも、不可思議で残酷な深淵がある。わたしは生来心優しい人間で、傷ついた野ウサギを見ては涙を流したことも何度かあるほどだが、このときばかりは血なまぐさい欲望にとりつかれていた。気がつくと立ちあがっており、一つの銃を射ちつくすともう一つの銃を手にとり、それも空っぽになると弾倉を開いて弾丸をこめなおしている。そうしながらも純粋な暴力と殺戮さつりくの喜びに駆られて、夢中でわめいたり歓声を発したりしていた。われわれは四梃の銃で大車輪に荒れ狂った。見張りの二人は倒れたが、サマリーは自由の身になったとも気づかず、茫然として酔っぱらいのような足どりでよろめいている。猿人の群はこの殺戮の嵐がどこから吹いてくるのやら、またそれが何を意味するのやらもわからず、当惑顔で右往左往するばかりだ。彼らは狂ったように手をふり、手真似で話し合い、射たれたものにつまずいては自分も倒れた。それから、突然の衝動に駆られて、わめきながら一度に林の中へ逃げこんだ。あとには倒れた仲間が点々と置き去りにされた。捕虜だけが空地の中央にとり残された。
 回転の速いチャレンジャーはとっさに事態をのみこんだらしい。うろたえ顔のサマリーの腕をつかんで、われわれのいるほうへ走りだした。見張りが二人追っかけてきたが、ジョン卿がたった二発で片づけた。われわれは教授たちを迎えるために空地へ走りだし、それぞれの手に弾丸をこめたライフルを押しつけた。ところがサマリーはもう精根つきはてていて、歩くのさえやっとだった。一方猿人どもはすでに恐慌状態から立ちなおっている。早くも茂みの中から現われて、われわれの逃げ道をふさぎそうな形勢だ。チャレンジャーとわたしが両側からサマリーを支えて走り、その間にジョン卿が茂みからのぞく野蛮な顔を狙い射ちして退却を援護した。彼らは奇声を発しながら一マイルかそれ以上も追っかけてきた。やがてついに彼らの追跡がやんだ。われわれの力を知って、正確なライフル射撃に立ち向かう気がしなくなったのである。ようやくキャンプにたどりついてうしろをふり向くと、人っ子一人いなかった。
 
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