怖いんですけど……。
この廊下を通って、トイレは1階の離れだ。ほとんど客のいない古ぼけた木造の宿は今にも幽霊でも出そう……、いや、幽霊じゃない。ここは中国じゃないか。キョンシーだ。キョンシーが出るぞ。あいつら死人のくせにめっちゃ強いんだよな……。「キョンシー」だぞ。「キョンツー」じゃないぞ。キョンシーが出たのにキョンツーすなわちキョン2のキョンキョンと勘違いして一緒にヤマトナデシコ七変化を歌おうとしても、向こうは中国人だからノリが悪いぞきっと。
そういえば、キョンシー役の真田広之が生徒の桜井幸子と禁断の恋をするという、野島伸司脚本のTVドラマが昔ヒットしたよな。たしかタイトルは……、そう、高校キョンガリッいでえええっ!!! 舌噛んだっ!! 言い切らないうちに舌を噛んだっ!!! もう言わないっ。
恐怖でウヒョウヒョ言いながらトイレに行って部屋に(あっさり)戻って来ると、相変わらずおっさんはグガーーッゴガーーッと大いびきで寝ている。
一向に収まる気配がないもんだから隣のベッドから「うるさいっ!!」と叫んでみると、一応その瞬間だけは少し静かになる。だが、その静かな状態は五分と続かず、なんだか「ウウッ、アオオッ……」と苦しそうに呻いたかと思うと、その後にまたグゴーガゴーと復活するのだ。
グガーーッ...ゴガーーッ...
騒音の中で眠ろうと奮闘しながらもやはり眠れず、あっという間に夜中の12時を回った。明日は6時起きなのに……。
グガーーッ...ゴガーーッ...
オレは、いい加減頭に来て電気を点けて怒鳴った。
「テメエうるせえって言ってんだよオイッ!!! ゴラアッッ!!! 静かにしろワレエッッ!!!!!」
「ウオウオッ、アウアワア……」
静かになった。