昔のチベットの産業といえばチベット絨毯やプル(チベット産毛織物の一種)、エプロン、チベット靴、木製茶碗の製造など伝統的な手工業で、近代的工業というものはなかった。1951年のチベット解放後、特に1959年の民主改革を経てチベットの工業は急成長を果たした。現在、優勢鉱産業、建材業、民族手工業、チベット医薬を基幹産業に、電力、農牧製品加工業、飲食品加工業などを主要産業とした特色ある工業生産システムが形成された。現代商業、観光、飲食サービス、文化娯楽、ITなどの新興産業も迅速に発展してきた。
2012年、チベットの年間工業成長は55.11億元を達成し、前年比14.7%増となった。チベット医薬業、エネルギー産業、優勢鉱産業、建築業、高原特色食品業、民族手工業などの企業は1982社になり、うち登録資本1億元以上の企業は254社もある。ラサ国家級経済技術開発区、タクツェ工業パークと青海チベット鉄道ナクチュ物流センターにはそれぞれ639社、64社、57社の企業が進出しており、非公有制経済の税収額は計143億元に上り、総税収の93%を占めている。非公有制経済はチベットにおいて雇用の主要ルート、地方財政収入の主要財源、市場繁栄の原動力と資金導入の主要分野になりつつある。
2、 農業
チベットは農業と牧畜業を主とし、両者の発展を同じように重視している。また海抜が高く気温が低いことから独特な農業を有し、その地理的な違いと垂直変化は著しい。チベットの栽培業は、主に自然条件が優れた河谷地帯に集中している。栽培作物の品種はとても少なく、主には裸麦で次に、小麦や油菜、えんどう豆、水稲、トウモロコシも幾らか栽培されている。そのうち、作付け面積の広い裸麦は寒さに強いため、海抜2500m~4500mの地区で広く栽培されている。2012年、チベットの年間食糧生産は95万tに達し、13年連続で90万tの大台を維持している。
3、牧畜業
牧畜業はチベットの農業経済の主体で、歴史が長く発展の潜在力は大きい。自治区の天然の牧場は8200万ha近くに達し、その内全国の5分の1を占める5600万haあまりは開発可能で、中国の5大牧畜地区の1つとなっている。ここには様々な牧草が有り、またその90%以上が高山湿原や高山の草原、牧場で、牧草の栄養価値も高い。
チベットの牧畜業はその農業総生産の60%を占め、ヤク、チベット綿羊、チベット山羊が飼育されている。その内、ヤクの数が最も多い。ヤクは高原地帯特有の動物で、厳しい寒さや酸素不足、湿気に耐えられることから「高原の舟」とも言われている。ヤクは肉用や乳用として産出量が高く、荷役としての便利な交通手段でもある。またチベット綿羊は厳しい寒さと乾燥に耐えることができ経済的効果も高いので、広い範囲に渡って多く飼育されている。
4、林業
2010年第7回全国森林資源調査の結果によれば、チベット自治区の森林面積は1462.65万haで、全自治区の森林カバー率は12%近くになった。自治区の森林資源は主にヤルツァンプ川の中流下流地域、山南地区、東部の峡谷地帯に分布し多くが原始林である。また、トウヒやモミを主とする亜高山帯針葉樹林が広く分布し、樹木の生長も速く、この点は世界でも稀である。
チベットはエコ建設を重視しており、森林生態、野生動植物、湿地、砂漠化など各種類の保護区61ヶ所が設立されている。自然保護面積は約4130万haで自治区内の国土面積の34%を占めており、脆弱な高原生態と生活環境は効果的な保護を受けている。現在、チベットの生態はほぼ原生状態を維持しており、中国の環境保護分野において最も優れている地域である。
4、チベット支援プロジェクト
世界の屋根と呼ばれるチベットは、歴史的要因と自然環境の制約により、長きに渡り社会発展のスピードが加速することは無かった。1994年、中央政府は第3回チベット活動座談会を開き62件ものチベット建設全国支援プロジェクトの実施を決めた。これらのプロジェクトは農業、牧畜業、林業、エネルギー、交通、郵便、通信などの分野に及んでおり、総投資額は48億6千万元を超えている。現在これらのプロジェクトは既に完成して操業に入っており、経済的にも社会的にも著しい成果を収めた。
62件のチベット支援プロジェクトは、チベット経済の発展を促すと共に、これまでの数千年の高原住民の生活習慣を大きく変えた。現在、自治区の政府所在地ラサの市民たちは毎日数チャンネルの衛星テレビ番組を楽しんでいる。また、チベット東部の三江流域では、農業の総合開発によって荒原はオアシスへと変貌し、チベット南部の学校は平屋の校舎が数回建てとなり、農牧民の子供たちは、明るい教室で授業を受けている。
花崗岩が敷かれたポタラ(布達拉)宮前広場では、色鮮やかな旗が風になびいている。毎年多くの観光客がここを訪れ、ポタラ宮はチベット高原の魅力を世界に発信している。
2010年、中国共産党中央と国務院は第5回チベット作業座談会を開き、チベットに対する中央の特別優遇政策の連続性と安定性を維持するため政策上の支援と資金投入に更に力を入れていくことを強調した。それにより、中央からの投資や特別プロジェクトの投資規模が拡大され、投資の重点も生活水準向上や社会事業、農牧業、インフラ整備に移り始めた。