第三節 関東地方
関東地方は日本のほぼ中央部に位置している。この地方には東京都、神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬の1都6県がある。面積は全国の約8%にすぎないが、人口は約30%も占め、人口密度も全国平均の3倍をこえる。人口の大部分は東京を中心とする南関東に集中している。
関東地方は日本列島の中央部の太平洋に面した部分を占め、北海道へも、九州へも、およそ1.000キロのところにあって、政治の中心地として適当な位置といえる。関東地方は、昔から中心地だったわけではない。日本は西のほうから開けてきたので、文化や政治の中心地は長い間、奈良や京都など近畿地方に置かれ、関東から北のほうは開発が遅れ、人口密度も低かった。鎌倉時代からその開発が始まり、江戸に幕府が置かれてから急速に開発が進められ、台地の開拓、沼地や海岸の干拓、利根川の治水工事などが行われて、多くの新田が開かれた。明治以後は、東京を中心に積極的に近代化が進められ、産業や人口が集中してきた。それによって関東地方は政治・経済・文化の中心地となった。
関東平野は南北約140キロ、東西約100キロもある日本一広い平野である。しかし、平野といっても台地と低地が入りみだれて、複雑な地形となっている。台地としては、北部に那須野原台地、南部には武蔵野台地・相模原台地、東部に常陸台地・下総台地などがあり、これらの台地は、火山灰からできている関東ローム層という赤土で厚くおおわれており、主に畑地として利用されている。低地は、利根川・荒川・那珂川などの支流の沿岸に広がっており、主に水田に利用されている。関東平野では低地より台地の面積が広いので、耕地の中でも水田より畑のほうが多くなっている。そのため、小麦の生産では日本全国第一の産地になっている。
関東平野の北から西にかけて三国山脈・関東山地が続き、富士火山帯や那須火山帯も交えて、2000メートルを超える山が多い。変化に富んだ地形は美しい風景をつくるので、秩父多摩国立公園・富士箱根伊豆国立公園というような観光・保養地が多い。東京湾を除いて海岸線の出入りは少なく、とくに東部の鹿島浦と九十九里浜、南西部の湘南海岸は、緩い弓なりの砂浜海岸になっている。丘陵の多い房総・三浦半島が突き出て、その南の海上には富士火山帯に属する伊豆諸島や小笠原諸島が続いている。
関東地方は太平洋式気候で、黒潮の影響を受けて、冬は雨が少なく、山地を除いては雪も余り降らない。夏は全体に蒸し暑く、雨もかなり多い。南ほど暖かく、とくに房総半島南部や相模湾に面する湘南の海岸では、冬も暖かく野菜や花の促成栽培が行われている。冬に日本海側から吹く季節風は、三国山脈を越えると、空風と呼ばれる乾燥した風になって、関東平野へ吹きおろしてくる。この風が強く吹き通るので、多くの農家は家の西と北に屋敷森をめぐらして家や作物を保護する。
東京は日本の政治、経済、文化などの中心地であり、東京を中心に、横浜を含む京浜地方は日本一の工業地帯である。東京には国会、中央官庁、最高裁判所、世界各国の大使館などが置かれ、大会社の本社、大きなデパート、問屋などが集まっている。その他、博物館、美術館、図書館、各種研究所など、水準の高い文化施設が東京にあり、大学だけでも192ヵ所が集まっている。
東京の住宅は年々郊外に広がっている。鉄道の沿線に多くの住宅団地やマンションが建設され、郊外に移る人々が多く、都心の人口の減少が目立ち、いわゆるドーナツ現象が起こってきた。東京の郊外で、鎌倉・藤沢・町田・立川・柏・船橋など多くの衛星都市や住宅団地が発達している。こうして、都心へ1時間半ぐらいで達する範囲は東京の通勤圏に入り、東京と強く結びついた大都市圏をつくっている。また、郊外に延びる鉄道と山手線とが接する新宿・渋谷・池袋などには、地下鉄やバス路線も集まり、都心に似た副都心が発達している。しかし、急激な人口増加に伴って、東京には多くの問題が起きている。住宅難や交通難がとくに深刻である。都心への通勤・通学する人口が多くなり、朝夕のラッシュアワーの混雑ぶりは激しい。道路の整備も進められているが、自動車台数の増加に追い付けず、交通麻痺の状態を引き起こし、交通事故も増えている。そのほか、地盤沈下・空気の汚染・水道用水の不足などがあげられる。これらの公害は大都市で生活する人々の深刻な悩みである。
東京都・神奈川県・千葉県西部・埼玉県南部に広がる範囲を京浜工業地帯と呼び、日本一の工業生産額を持つ総合工業地帯である。京浜工業地帯では、鉄鋼などを作る金属工業、自動車や船・電気機械などを作る機械工業、石油化学製品や薬品・肥料などを作る化学工業、いろいろな雑貨や食料品を製造する工業など、あらゆる種類の工業が盛んである。
東京から川崎・横浜にかけて工場が多く、京浜工業地帯の中心で、この辺りには鉄鋼、機械、造船、化学、石油精製などの大工場や火力発電所が立ち並んでいる。横浜、川崎、東京は貿易港で海運が盛んに国内外と往来している。
関東地方の主な水田地帯は、利根川・江戸川・荒川などの川沿いの低地や、九十九里浜・東京湾などの海沿いの平野に集まっている。群馬県や栃木県の水田には二毛作が多く、裏作には麦などが作られている。茨城県や千葉県の水田はほとんどが利根川の下流や湖の畔のような低地に集まって、主に早場米を作っている。大都市に近い農村では近郊農業が発達して、農家は二毛作、三毛作を行い、労力と資本をかけて米のほか、野菜、草花、様々な農産物を作り出し、収穫物をトラックで市場に運んでいる。また、関東北西部の高原では、夏の涼しい気候を利用してキャベツ・レタスなどを栽培して京浜に大量に出荷している。
関東地方の主な漁港は千葉県と神奈川県に集まっている。中でも有名なのは三崎と銚子である。神奈川県の三崎港は三浦半島の先にあり、その沖には鰹や鮪が泳いでくる黒潮が流れ、後には横浜・東京などの大都市が控えている。したがって、魚を捕るにも、捕った魚を売り捌くにも大変都合のよい場所である。そのため、三崎港遠洋漁業の大根拠地になり、とくに鮪の水揚量は多い。銚子の沖は暖流の黒潮と寒流の親潮とぶつかる所で、鰯・秋刀魚・鯖・鮪・鰹など、たくさんの種類の魚がとれる。東京湾の浅瀬では海苔、あさり、蛤の養殖があるが、近年は埋立地が増加したり、工場や都市からの廃水で海が汚されたりして、水産業は非常に衰えた。
関東地方は日本で最も交通の発達した地域である。京浜と阪神とは新幹線によって約三時間で結ばれ、日帰りができる。そのほか、東名高速道路や関越自動車道・東北自動車道も開通した。東京の市街地には、首都高速道路が放射状に通じ、第三京浜国道や京葉道路、新空港自動車道もある。東京から各方面への飛行機、電車、バスも多く、非常に便利である。
関東地方には有名な国立公園や史跡や温泉などがあり、歴史が古く風光明媚なところも多く、中でも日光や箱根や鎌倉などは国際観光地として知られ、観光客が多く訪れている。そのほか、スポーツ施設や近代的な博物館や美術館や劇場などの文化施設が整っている。