これは教育関係の研究で様々なデータが残っていて、明らかになっています。一番わかりやすい例として、信州大学教育学部が長年にわたって行っている実験があります。
単純化して説明すると、①こんな実験です。まず、子どもの目の前に赤のランプと黄色のランプを置き、手元にはスイッチを押すように指示しておく。この時、スピードは競わない。ですから、子どもはゆっくりでも正確に反応してくれればよいのです。
ところが、子どもはどうしても手元にあるものをついつい押したがってしまう。赤ランプで押せば、当然、それは間違いということになる。この間違い率を測ることで、どのぐらい正確に行動しているかがわかる、という仕組みです。
当然、正解率は小学生でも高学年のほうが高くなります。ところが、約三十年前に小学校低学年が出していた正解率と、現在の小学校高学年が出している正解率がほぼ同じ、という結果が出ているのです。簡単に言えば、この三十年間で( ② )ことになる。
この実験のポイントになっているのが「抑制」です。つまり、ランプが点いたけれども、それが赤ランプだという時には、子どもは我慢をしなくてはいけません。実はこの時、前頭葉には、血液が集まっているのです。つまり、前頭葉が機能しているということです。③その時には押さないで我慢をしている。
ここではスピードは競っていないのですから、簡単にスイッチを押さずに我慢をして判断するのが正解です。何ならランプが点いてから、じっくり考えて、「黄色だから押す」という風にすればよい。それを我慢できないからついつい押してしまう。
別の実験では、心理カウンセラーの三沢直子•明治大学教授が、1981年と1991年に行った比較があります。子どもに「人間」と「木」と「家」の三つを絵にしてください、と言う。その同じテーマの絵に、十六年間でかなりの傾向の差が現れた。
例えば、昔のこの絵には、その三つのテーマについて一つのストーリーなりテーマがあった。つまり、家の中に人がいて、外に木が立っている、という当たり前の構図を描くわけです。当然、絵の中のバランスも現実に即したものになっている。人より家や木が大きくなっています。
ところが、最近の子どもは、小学生にまでなっても、その三つのバランスが非常に悪い。極端に家が小さかったりする。他にも攻撃的な絵が多いといった特徴が見られるなど、昔の子どもとの違いが見事に現れていたそうです。こうしたことも、前頭葉の働きとの関係があるのではないかと考えられます。
21.①「こんな実験です」とあるが、実験の内容に合っているものはどれか。
1 スイッチを押す時、赤のランプが点いたら、間違いとなる。
2 スイッチを押す時、黄色のランプが点いたら、間違いとなる。
3 赤のランプが点いた時、スイッチを押したら、間違いとなら。
4 黄色のランプが点いた時、スイッチを押したら、間違いとなる。
22.( ② )に入れる言葉として、正しいのは何か。
1 発育は四、五年遅れている。
2 発育レベルはほぼ変わっていない。
3 発育は四、五年早くなっている。
4 発育の状況急に変わっている。
23.③「その時」はどんな時か。
1 黄色のランプが点いた時
2 頭に血液が集まっている時
3 前頭葉が働く時
4 赤のランプが点いた時
24.筆者の主張と合っているものはどれか。
1 この三十年間、何事もスピード優先のため、子どもの行動は抑制が効かなくなり、切れやすくなった。
2 今の子どもは情緒不安定で、攻撃的な行動が多くなったことは心理学者の実験で証明され、大きな社会問題となっている。
3 子どもは我慢できなくなり、切れやすくなったのは前頭葉機能が低下していることと関係がある。
4 三十年前の子どもたちと比べると、今の子どもたちは発育に遅れを取っており、行動力に欠けているが目立つ。