毒梨と茶碗
あ る村むらに小ちいさなお寺てらがありました。庭にわに一本いっぽんの梨なしの木きがあり、今年ことし初はじめて大おおきな実みが五いつつなりました。「おお、よかった、うまそうな梨なしが実みのるに違ちがいないわい」と、和尚おしょうさんは大喜おおよろこびです。虫むしに食くわれないようにと、紙袋かみぶくろを作つくって、梨なしの実みにかけ、大事だいじに育そだてていました。梨なしはだんだん大おおきくなり、袋ふくろが破やぶれて、実みがはみだし [1] てきました。
ある日ひ、和お尚しょうさんは法ほう事じで檀だん家か [2] へ出でかけることになりました。しかし、梨なしが心しん配ぱいになり、留る守す番ばんの小こ僧ぞうさんに言いいました。「小こ僧ぞうや。庭にわの梨なしは毒どく梨なしだから、絶対ぜったいに取とって食くってはならんぞ。もし、あの梨なしを食くったら、お前まえはころり [3] と死しんでしまうぞ。いいな。」「はい。分わかりました。和尚おしょうさま。いってらっしゃい。」小僧こぞうさんは、お辞儀じぎをして、和尚おしょうさんを見送みおくりました。
一人ひとりになった小こ僧ぞうさんは、庭にわへ行いって竹たけの棒ぼうで、梨なしを突つついてみました。梨なしは、紙かみ袋ぶくろを破やぶって大おおきくなっていました。おいしそうでした。小僧 こぞうさんは食 くいたくてたまりません 。「ありゃっ!」小こ僧ぞうさんが竹たけの棒ぼうで突つついていると、大おおきい梨なしが一ひとつもげ [4] て、ぽとりと下したへ落おちてきました。和お尚しょうさんは毒どく梨なしだから食くうなと言いったけれど、あんまりおいしそうなので、小僧こぞうさんは、ひと口くちがぶりと [5] かじり [6] ました。「おお、甘あまい。」よく熟じゅくした梨なしは、甘あまい汁しるが滴したたりました。小こ僧ぞうさんは夢む中ちゅうで一ひとつ食くってしまいました。
しかし、ちっとも毒 どくに当 あてられることもなく、何 なにも異 い状 じょうはありません 。「和尚おしょうさんは、私わたしに食くわせまいとして、毒どく梨なしだとうそを言いったんだな。」小こ僧ぞうさんは、そう言いって、もう一ひとつ梨なしを落おとして食くいました。あまりにおいしいので、もう一ひとつ、もう一ひとつと、次つぎ々つぎと落おとして食くい、とうとう五いつつの梨なしをみんな食くってしまいました。
その時小僧ときこぞうさんは「困こまったなあ。和尚おしょうさまが帰かえってきたら、どんなに怒おこるだろう。」と、心配しんぱいになってきました。和お尚しょうさんが帰かえってくる時じ間かんが迫せまってきたので、小こ僧ぞうさんはあることを考かんがえました。家いえの中なかに入はいり、和尚おしょうさんがいつも大切たいせつにしている湯飲ゆのみ茶ちゃ碗わんをぶつけて割わりました。それから、唾つばを目めの周まわりに塗ぬり付つけて手てを顔かおに押おし当あて [7] て泣なく真似まねをしました。
和尚おしょうさんが帰かえってきました。「小僧こぞうや、今帰いまかえったよ。何なにも変かわったことはなかったろうな。」和お尚しょうさんがそう言いいながら家いえの中なかへ入はいっていくと、小こ僧ぞうさんは障しょう子じの陰かげで、しくしく [8]
泣ないています。
「おや。どうしたんじゃ。何なにを泣ないているのじゃ。一人ひとりで寂さびしくて泣ないておるのか。」と、和尚おしょうさんが声こえをかけると、小僧こぞうさんは首くびを振ふって、泣なきじゃくり [9] ながら言いいました。「いいえ。和お尚しょうさま。
寂さびしくて泣ないているのではありません。和お尚しょうさまが大たい切せつにしていらっしゃる茶ちゃわんを洗あらおうと思おもったら、落おとして割わってしまいました。それで…」「なに!」「申もうし訳わけなくて、私わたしは死しんでお詫わびをし[10] ようと思おもって、庭にわの毒どく梨なしを取とって食くいました。一ひとつ食くっても死しにません。二ふたつ食くっても死しにません。とうとう、五いつつ全部食ぜんぶくいましたが死しねないのです。どうしたらいいかわからないので泣ないているのでございます。」
「げっ!あの梨なしを五いつつ、全部取ぜんぶとって食くってしまったのか!」和尚おしょうさんは思おもわずどしんと [11] 尻しりもちをつい [12] てしまいました。しかし、小こ僧ぞうさんを叱しかることはできませんでした。
[1] 「はみだす」,动词。(由中间)露出、挤出。
[2] 「檀家」,名词。(佛)施主。
[3] 「ころり」,副词。突然。
[4] 「もげる」,动词。掉下来、脱落。
[5] 「がぶりと」,副词。张大嘴一口气吞下去。
[6] 「齧る」,动词。啃、咬。
[7] 「押し当てる」,动词。按住。
[8] 「しくしく」,副词。抽泣、抽抽搭搭。
[9] 「泣きじゃくる」,动词。抽泣、抽抽搭搭地哭。
[10] 「お詫びをする」,道歉、赔礼。
[11] 「どしんと」,副词。沉重、沉甸甸的。
[12] 「尻もちをつく」,跌个屁股蹲儿。
毒梨与茶碗
从 前,在某个村里有一座小庙。庙的院子里有一棵梨树,今年第一次长了五个大梨。“哦!太好了。一定会长成又香又甜的梨吧。”老和尚非常高兴地说。为了不让虫子咬,他做了纸袋包在梨上,小心翼翼地培育。梨渐渐地变大,撑破纸袋,露了出来。
有一天,老和尚要去施主家做法事。可是因为他担心梨被偷吃,他便对看家的小和尚说:“小和尚呀!院子里的梨是毒梨,你千万不要摘来吃哦!如果你吃了的话,很快会死的。知道吗?”“好的,知道了。师傅,您走好。”小和尚鞠躬行礼目送老和尚远去。
庙里只剩下小和尚一个人,他走到院子里,试着用竹棒去戳梨。梨长得很大撑破了纸袋,看起来很香甜,小和尚非常想吃。“唉呀!”小和尚拿竹棒使劲一戳,一个大梨就掉下来了。虽然老和尚说那是毒梨,不能吃,但是这梨实在太诱人了。于是,小和尚就咬了一大口,“哇!真甜呀。”熟透的梨滴下甜甜的汁,小和尚尽情地吃完了一整个。
可是,他一点儿也没中毒,也没有任何异常状况。“原来师傅是为了不让我吃,才谎称那是毒梨的。”小和尚说着,又戳下来一只梨子吃了。因为太好吃了,他摘了一个又一个,一个接着一个,小和尚终于吃完了五个梨。
这时,小和尚担心起来。“糟了,如果师傅回来了,不知会气成什么样子呢。”离老和尚回来的时间越来越近,小和尚灵机一动,他走进屋,把老和尚一直以来都很珍爱的茶碗用力地往地上一摔,然后往眼眶四周涂抹口水,用手捂着脸,哭得像真的一样。
“小和尚!我回来了。没有什么事儿吧?”老和尚一边说一边走进屋。只见小和尚在拉门后边,抽抽嗒嗒地哭泣着。
老和尚问:“唉呀,你怎么啦?哭什么呢?是因为一个人寂寞了就哭吗?”听到师傅的声音,小和尚摇了摇头,一边抽泣一边说:“不是,师傅。不是因为寂寞才哭的,是因为我想帮你洗你最珍爱的茶碗,可是不小心我把它摔破了。所以……”“什么?”老和尚听了大叫。“实在很抱歉。我想以死谢罪,所以就去摘院子的毒梨吃了。但是吃了一个不死,吃了第二个还是不死,结果我把五个全都吃了,还是死不了。我不知如何是好,所以才哭起来。”
“啊?你把那五个梨全部摘下来吃掉啦?”老和尚懊恼极了,却又无法责骂小和尚,“扑通“一屁股坐在地上,一句话也说不出来。
语法详解
(1)形容詞、動詞の連用形/+てたまらない;形容動詞の語幹+でたまらない
表示心情或身体处于难以抑制的状态。相当于“……得受不了”“……得不得了”。
* 小僧さんは食いたくてたまりません。
小和尚想吃得不得了。
* あの手品は不思議でたまらない。
那个魔术神奇得不得了。
(2)動詞の連体形+こともない
表示“不可能……”“不会……”“没道理……”的意思。
* 年を取ってからは若さを取り返すこともない。
上了年纪之后就不会再年轻了。
* 多趣味なので、話題に困ることもない。
因为兴趣广泛,所以不愁没有话题。
小知识
茶碗
茶器の一つとして中国で生まれ、奈良時代から平安時代をかけて茶と一緒に日本に伝来したと考えられている。江戸時代、煎茶の流行とともに従来からの抹茶茶碗に加えて、煎茶用の煎茶茶碗、白湯·番茶用の湯呑茶碗も用いられるようになったとされる。明治時代に入ると磁器の飯茶碗が普及した。現代の日本では、通常、「お茶碗」と言った場合には飯茶碗を指す。ご飯をよそうための椀は、特にご飯茶碗や茶碗、飯碗とも呼ぶ。日本の家庭での茶碗は湯呑茶碗でもご飯茶碗でも、箸と同様に属人器である。古来から多くの家庭で、各人専用の湯呑茶碗とご飯茶碗が定められている。
茶碗
茶碗作为茶器的一种,诞生于中国,从奈良时代到平安时代,和茶一起传入日本。江户时代,随着煎茶的盛行,除了以往使用的抹茶茶碗,日本还出现了用于煎茶的茶碗和用于装热水或者粗茶的茶杯。进入明治时代,陶瓷制的饭碗开始普及。在现代日本,说到“お茶碗”,一般是指饭碗。用于装饭的碗,特别称为“ご飯茶碗”“茶碗”或者“飯碗”。在日本的家庭中,饭碗和茶杯都和筷子一样,为个人专用的。自古以来,很多家庭中都有个人专用的茶杯和饭碗。