金の持ち主
あ る日ひ、庄屋しょうやさんが道みちを歩あるいていると、大おおきな袋ふくろが落おちていました。中なかを見みると、小銭こぜにがザクザクと入はいっています。ざっと見みただけでも、二千枚にせんまいはありそうです。
「これは、えらい落おとし物ものだ。落おとし主ぬしは、泣ないとるじゃろう。」と、庄屋しょうやさんは家いえに持もって帰かえり、村むらに知しらせの者ものをやりました。すると、さっそく現あらわれたのが、吾助ごすけと兵六へいろくです。二人ふたりとも、「おらのだ。」「いや、おらのだ。」と、言いうのです。
袋ふくろを隠かくして、二人ふたりの前まえに出でた庄屋しょうやさんは、「落おとしたお金かねのことを、くわしく話はなしておくれ。」と、言いいました。するとまずは、吾助ごすけが、「へえ、あのお金かねはおらが貧まずしい中なかから一文いちぶん、二文にぶんと、つぼ [1] にコツコツ貯ためた物ものだ。だども、おっかあが病気 びょうきになったで、町 まちへ医者 いしゃん呼 よひに行 いくのに、袋 ふくろに入 いれて持もって行 いく途中 とちゅうだったべ 。」
これを聞きいていた兵六へいろくが、「うそをつけ!この盗ぬすっ人とが。あれはおらがつぼに貯ためた金かねだ。一生懸命いっしょうけんめいに貯ためたが、今日きょう、つぼを見みると空からっぽになってた [2] 。きっとこいつが盗ぬすんで袋ふくろに入いれて行いこうとしたにちがいねえ、庄屋しょうやさん、こいつはとんでもねえやつでごぜえます [3] 。第一 だいいち、こんな貧乏人 びんぼうにんに金 かねが貯 ためられるわけねえ 。」
二人ふたりの話はなしを聞きいた庄屋しょうやさんは、「そうか。ところで吾助ごすけに兵六へいろく。なくしたお金かねは何枚なんまいぐらいじゃった?」「それが、数かぞえた事ことがねえから…。だども、つぼの首 くびまではあっただ 。」「おらもはっきりとは。だども、きっちりつぼの首 くびのところまで貯 たまっただ 。」二人ふたりとも、ちゃんとは答こたえられません。
そこで庄屋しょうやさんは、「わしが見みたところ、千枚せんまいはあったが。そんじゃひとつ、お前まえさん方ほうのつぼに入いれてきっちり首くびまで入はいった方ほうが本当ほんとうの持もち主ぬしということになるな。よし、二人ふたりとも、つぼを取とりに帰かえっておいで。」二人ふたりはさっそく家いえに帰かえり、めいめい、つぼをかかえて戻もどってきました。
ところが吾助ごすけのつぼは、何なんとも大おおきなつぼです。「庄屋しょうやどん、吾助ごすけのやつは欲深よくぶかじゃて。あんなにでっけえ、つぼさ持もってきて。」と、得意とくいそうに差さし出だした兵六へいろくのつぼへ、庄屋しょうやさんはお金かねをザラザラッと入いれますと、たちまちお金かねは溢あふれて、ザクザクと [4] 畳たたみの上うえへ落おちました。
青あおくなる兵六へいろくに庄屋しょうやさんは、「兵六へいろく、金かねは首くびのところまで貯たまっていたのでは、なかったかのう?」??
続つづいて吾助ごすけのつぼに入いれかえると、ピッタリ首くびのところまで入はいりました。「このお金かねは吾助ごすけの物ものじゃ。お金かねは本当ほんとうは二干枚にせんまいあったんじゃが、千枚せんまいと言いうたら、うそをついておる者ものが千枚せんまいくらい入はいるつぼを探さがして持もってくるじゃろうと思おもうたんじゃ。こら兵六へいろく、悪わるい事ことはもう二度にどとするでないぞ。それから吾助ごすけ、こんな大事だいじな物もの、もう落おとさんように気きをつけるのじゃぞ。」こうしてお金かねは無事ぶじに、持もち主ぬしの吾助ごすけのところにもどりました。
[1] 「つぼ」,名词。罐、坛、缸。
[2] 「空っぽになる」,变得空荡荡。
[3] 「とんでもねえやつでごぜえます」=とんでもないやつです。这家伙太不像话。
[4] 「ザクザクと」,副词。大把大把,拥有很多金钱状。
钱的主人
有 一天,村长在街上走着走着,突然有个大袋子从天而降。他打开一看,里面装有大把大把的铜钱。粗略一看,大概有两千枚之多。
村长心想:“这么重要的东西,失主应该很伤心吧。”于是,他把钱拿回了家,并把这个消息告诉了村里人。不一会儿,来了名叫“吾助”和“兵六”的两个人,他俩争着说:“钱是我的。”“不,是我的。”
于是,村长把袋子藏了起来,走到二人面前说:“请你们把丢钱的经过详细地说一说吧。”吾助首先开口:“嗯,那些钱是我在贫穷的生活中一分一分地放在罐子里积攒起来的。但因为母亲生病了,我要到城镇去找医生才把钱放到袋子里,那是我在途中丢失的。”
听了这番话,兵六大叫:“你说谎!你这盗贼!那是我在罐子里存的钱。我是多么努力才积攒下来的呀!但是今天一看罐子,竟然空空如也。一定是你这家伙偷了钱,放进袋子里拿走的!村长,这真是个不像话的家伙呀!无论如何,这么贫穷的人是根本不可能存下钱的。”
听了他两人的话,村长说:“好吧。吾助、兵六,你们知道丢失的钱有多少个吗?”“那我倒没有数过……。但是,刚好到罐子的颈部那儿。”吾助说。兵六也说:“我也不太清楚,但是,是紧紧地塞到了罐子的颈部那儿的。”二人都无法清楚地回答上来。
于是村长说:“依我来看,有一千个左右。那暂且这么决定吧。你们把自家的罐子拿来,我把钱都塞进罐子里,正好能够到达颈部位置的一方,那就是真正的失主啦。”二人都马上回家,然后各自抱着罐子回来了。
只是吾助的罐子实在太大了。兵六得意洋洋地边拿出罐子边说:“村长,吾助那家伙真是贪婪啊。竟拿来了那么大的罐子。”可当村长往他的罐子里放钱时,他的罐子很快就满了,钱“哗啦哗啦”地散落在榻榻米上。
村长对着面色发青的兵六说:“兵六,你不是说钱刚好到罐子的颈部位置吗?”兵六哑口无言。
村长又继续把钱放入吾助的罐子里,刚刚好到达瓶颈。村长说:“这些钱是吾助的!实际上有两千个铜板,我之所以说是一千个,是因为我想,说谎的人一定会去找来一个只能装一千个铜板左右的罐子来。兵六,以后不要再做坏事啦!还有,吾助啊,这么重要的东西今后小心别再弄丢啦!”就这样,丢失了的铜钱平安无事地回到了主人吾助的手中。
语法详解
(1)用言/助動詞の終止形+ども(終助詞)
表示断然肯定的意思。相当于“一定……”“当然……”
* ——明日行くかい?
明天你去吗?
——行くども。
一定去。
* ——この本を借りてもいいか。
这本书我可以借用吗?
——ええ、結構だども。
当然可以。
(2)用言の連体形+わけがない
表示说话人的主观判断。“不可能……”“不会……”“没有理由……”
* 彼がこんな漢字の多い本を読めるわけがない。
有这么多汉字的书,他不可能看得懂。
* 私が説明したのだから、彼がそれを知らないわけはありません。
我进行了说明,所以他不可能不知道。
* こんな貧乏人に金が貯められるわけねえ(はない)。
这么贫穷的人是没有理由存到钱的。
小知识
庄屋
江戸時代の村役人である地方三役のひとつで、村落の代表者である。西日本では庄屋の呼称が多く、東日本では名主と呼ばれることが多い。また、東北地方·北陸地方·九州地方では肝煎と呼ぶ。村請制村落の下で年貢諸役や行政的な業務を村請する下請けなどを中心に、村民の法令遵守·上意下達·人別支配·土地の管理などの支配に関わる諸業務を下請けした。社会の支配機構の末端機関に奉仕する立場上、年貢の減免など、村民の請願を奉上する御役目もあった。
村长
江户时代,作为村落政府工作人员的“地方三职”之一,是整个村落的代表。
日本西部称为“庄屋”,而日本东部多称为“名主”。另外,东北地区、北陆地区、九州地区称为“肝煎”。在实施“村请制”的村落中,村长主要负责收取年贡、摊派各种杂役和其他行政业务,负责监督村民遵守法令、传达命令、人口管理、土地管理等各项事务。作为服务于社会管理机构的最末端组织的角色,村长还承担着向上级部门传达如减免年贡等村民的各种请求。