「窓ぎわのトットちゃん」という私の本が、英語に翻訳《ほんやく》され、アメリカの本屋さんの店先に並《なら》ぶことになったので、私は、アメリカに行き、世界で一番有名なトークショウ、あの、ジョニー・カースンの「トゥナイト・ショウ」を始め、十くらいのテレビに出ました。トークショウの他《ほか》は、ニュース・ショウや、ニュースの時間です。このとき、なんといっても驚いたのは、「テレプロンプター」という、テレビのカメラを見て喋《しや》べる職業の人《ひと》用の、電気|仕掛《じか》けカンニングペーパーです。
鏡を応用してあるんですが、とにかく、机の上の原稿《げんこう》を見る必要もなければ、カメラの横のカンニングペーパーを、横目でチラチラ見る必要もないんです。まっすぐ、カメラにむかい、どんどんしゃべるテンポで進んでくれる拡大したタイプライターの字を読めば、いいんです。まるで、何もかも、すっかり、おぼえこんで、喋べってる、としか絶対に見えません。アナウンサーとか、コマーシャルをやる人とか、とにかくカメラにむかって喋べる人には天国のようなものです。
「わあ、こんないいものがあるのに、なんで、何もかもアメリカ方式を取り入れたNHKが、一緒に買わなかったのかしら……」と私は叫《さけ》びました。私がショックを受けていると、CBSだったか、どこだったか、局は忘れましたが、そこの人達が慰《なぐさ》めてくれました。
「いや、これは、極《ご》く最近、開発されたもので、昔からなんかは、なかったよ。レーガン大統領の命令だよ。大統領は百パーセントテレビを利用したからね。そのために、テレビを見てる人には絶対にわからない、最もすぐれたカンニング方式を開発しろ! ってことでね。それで、これが出来たわけ」。なるほど、と、私は納得《なつとく》しました。レーガン大統領が、テレビ出演のすべてに、これを使っているのでは、ないにしても、少なくとも、スタジオで、余裕《よゆう》しゃくしゃく、ニコニコ笑いながら、何も見ずに、長時間にわたって演説なさる時など、これを、フルに使ってらっしゃるに違いない! と思ったからです。こんな兵器があったとは! それにしても、アイゼンハウワーは、テレビを最大限に利用して大統領に当選し、そのころ、アメリカのテレビは、著《いちじる》しく、発達しました。いま評判の、アメリカの女性副大統領候補のフェラーロ女史は、とてもテレビ写りが良く、人気は、うなぎ昇《のぼ》りだそうです。日本の政治家の皆さんは、テレビを、それほど重要! と考えていらっしゃらないように、私には思えます。日本に、このテレプロンプターが導入されれば、恐《おそ》らく、政治家の皆さんの人気は、もっと上がるでしょう、と、私は考えるのですけど。