「マンモスの夢《ゆめ》を見ると、次の日、必ずいいことが起る」これが、このころのトットの得意な話だった。そして、事実そうだった。だから、トットをよく知ってる人は、
「どう最近、マンモスのほうは。出てる?」と聞くくらいだった。
さて、履歴書《りれきしよ》をNHKに送ってからというもの、トットの落ち着かないことといったら、なかった。何しろ、パパにもママにも内緒《ないしよ》で出した履歴書だから、NHKから返事が来たら、誰《だれ》よりも早く、それを受けとらなくちゃならなかった。郵便屋さんは、朝一回と午後一回、来る。トットは履歴書を出した二日後くらいから、なんとかかんとか胡麻化《ごまか》して学校を休み、なるべく外にいて、郵便屋さんを待つようにした。そういうときに限って、パパも仕事が休みで、庭で植木の手入れなどしたりする。もうトットは、気がきじゃなかった。なんかの加減で郵便屋さんが、パパに、「はい」なんて手渡《てわた》したりしたら、どうしよう。とにかく、なるべく郵便受けの近くにいるのに限る。でも、体操というのもわざとらしいし、発声練習をずーっとやっているわけにもいかないし……。外にいるのも大変だ。
(こういうとき、犬でもいればいいのにね。そうしたら、一緒《いつしよ》に遊んでるふりして、待ってれば、いいんだからさ)トットは子供のとき友達《ともだち》だった犬のロッキーのことを思い出した。でも、目は、ずーっと、道路のむこうから姿を現すはずの郵便屋さんを、待っていた。
四日ほど、そうやっていたけど、そして、何通かの手紙は、うまく直接、受けとったけど、NHKからのは、なかった。そのうちに、なんだか、もう通知は、来《こ》ないような気がしてきた。そう思うと気が楽になって、学校に行き始めた。そうして何日かが過ぎた。
その日は、どうしても、家で勉強しなければならないものがあった。トットは朝から熱心に自分の部屋で机にむかっていた。もうNHKのことは、ほとんど忘れかけていた。パパは仕事、ママは出かけていた。
「ごめん下さい」という男の人の声が玄関《げんかん》でした。出てみると、郵便屋さんが立っていた。そして、いった。
「書留《かきとめ》です。ハンコ下さい」
ハンコを押《お》して、書留を受けとった。パパかママのだろうと思い、そのへんに置こうとして、何気なく宛名《あてな》を見ると、それは、トット宛だった。そして、それは、NHKからのものだった。とたんにトットは思い出した。
(そういえば、ゆうべマンモスの夢みたんじゃないの! すっかり忘れてた!)
手の上の書留はハトロン紙の封筒《ふうとう》でいかめしく、いままでトットが受けとっていた、ピンクや、ブルーのとは、全く違《ちが》っていた。