一年間分いくらという金額を払いこんでおくと、毎月幾品かずつ全国各地の旨いものを届けてくれる、というシステムがある。
どういうわけか、私はこのシステムに乗り気でなくて、これまで入会したことがなかった。ところが、どういうわけか、今年のはじめ入会してみた。
気軽に旅行できない健康状態が若いころからつづいていて、わが国のどこになにがあるのかよく知らない。
ディスカバー・ジャパン(この言葉も突然時代に合わなくなってしまったが)風の知識欲が先で、居ながらにして旨いものが食えるという期待はあまり持っていなかった。
私が参加した元締は、「味の百人会」というところで、月額二千何百円かである。この金額は安いといってよいだろう。
たとえば四月に届いた品を例記してみる。前回に書いた「一枚の紙」というのは、これらの品物に添えられているものである。
○城下がれい—汐干《しおぼし》。大分県日出町(大分空港より全日空便)。
○えぞ鹿のくんせい。北海道大雪山。
○きびなご。鹿児島県阿久根。
○もずく。能登半島七尾湾。
こういうシステムで届けられる品物に旨いものはあるまい、と予想していたが、そうでもない。もずく、というのは料理屋で食べても、うまいまずいが極端だが、このもずくは美味であった。
城下ガレイも結構であった。
会員が何人いるのか知らないが、このように東西南北の品物を、なかにはヒコーキを使って集めて、さらに会員宅に直接いちいち配達するとなると、ずいぶん費用がかかるだろう。一カ月二千何百円かでは、そんなに利益が出るとも思えない。
なんのために、こんな厄介なことをしているのだろう、と考えていて、考えの及んだ先は品物に添えられた説明書である。
文章や文字の形から推察すると、かなりの年齢の人とおもえる。
この説明書がなかなか面白い。文章がやや古めかしいところにも、味がある。たとえば、「小柱《こばしら》のうにあえ」の解説を引用させてもらうことにする。
『殻付では「バカガイ」、むくと「青柳」、舌(足)を引っぱって素干《すぼし》にすると「姫貝」、味付けをして乾燥すると「桜貝」と、その変幻自在な変身ぶりは全く美事なものですが、なにか親の不始末を子が一生懸命かばっているような、いじましい感じさえしてしまいます。
さて、この青柳の貝柱のことを小柱といい、天ぷらのネタとして欠かせないものの一つですが、これを主原料に、ねりうにと数の子のバラ子を加えて調味したいわゆる創作吟味の一つです』
いかにも、愉しみながら書いている文章である。「親の不始末を……」というあたり、ユーモアがあってよろしい。
あるいは、利益が出ないのを承知で、この解説を書く趣味のために、こういう会をつくったのではないか、とおもいたくなる。
ところで、うかつなことだが、私はテンプラのかき揚げやナマのままで食べていた小柱が、青柳の貝柱だとは知らなかった。
青柳は苦手の貝の一つで、あの色合いとにおいが嫌なのである。しかし、小柱のほうはむしろ好きな食べ物で、ソバ屋で酒を飲むときしばしばサカナにしている。
小柱のことを知ってからでも、その貝柱にたいして偏見はもたない。
親は親、子は子、といったところか。