[書き下し文]子曰く、士(し)にして居(きょ)を懐う(おもう)は、以て士と為すに足らず。
[口語訳]先生が言われた。『志の高い士(し)でありながら安楽な住居(故郷)を思っているような人は、士と呼ぶことはできない。』
[解説]政治(天下)や社会に対して高い理想と志を掲げている人間を当時は『士』と呼んだが、孔子は快適な住環境や慣れ親しんだ故郷を恋い慕うような人間を『士』と呼ぶことは出来ないと語っている。その意味で、孔子は士の条件として一つの場所にこだわらない『行動力・決断力・実践力の高さ』を非常に重視していたと言える。士たるものは、自分を内向きにさせる『プライベートなもの』を越えた公共圏への義務を果たさなければならないのであり、必要とあらば慣れ親しんだ土地(家・故郷)を即座に捨てて行動できるだけの覚悟が求められたのである。現代に置き換えて考えると、心理的な依存や情緒的な甘えを断ち切った『フットワークの軽さ』や『異文化への適応力』の必要を説いた章と言える。