それはもう見事に大きいこぶで、おじいさんがまきを割るたびに たゆん、たゆんとゆれるのでした。
でもおじいさんはのんきな明るい性格でしたからそんなの気にしません。毎日こぶをたゆんたゆん揺らしながら薪割りをしていました。
「やーい、変なこぶ 変なこぶ」
と子供たちがからかっても、
「はっはっは、こんなこともできるぞ」
と、ぐるぐるこぶをふりまわし、むしろ子供たちを喜ばせるのでした。
さて村にもう一人ほっぺにこぶのあるおじいんさんがいました。
このおじいさんは暗いイジケた性格でした。ほっぺのこぶをいつもひっぱったりひねったり、気になって畑仕事どころではなく、一日中イライラしていました。
「やーい、変なこぶ、変なこぶ」
と子供たちがからかうと、
「このクソガキどもがーッ!!」と、
大人なのに本気で怒ります。クワを持って子供たちを追いかけまわすのでした。
ある日のんきなおじいさんは山で木を切っていました。
「うーん、仕事は気持ちいいのー」
と、どんどん山を登っていくと、パラパラと雨が降ってきて、すぐに土砂降りになります。
「うひゃ、ひやっこい」
おじいさんは雨宿りできる場所を探します。見ると洞窟あったので、そこに入って雨がやむのを待ちます。
洞窟の中にかがんで休んでいるうちに、おじいさんはウトウト眠りに落ちていきました。すっかり雨はやみ、夜になり月が出てものんきなおじいさんは眠り続けました。
ふと目が覚めると、
ピーヒャラドンドン、ピーヒャラドンドン
楽しそうな音が聞こえます。
お祭りのお囃子みたいです。
「はて、こんな山奥で祭りでもやっとるんじゃろか」
ひょいと外を覗くと、メラメラ燃え盛る火を囲んで赤鬼、青鬼、大きい鬼、小さい鬼…たくさんの鬼たちが
ピーヒャラドンドン、ピーヒャラドンドン
楽しそうに踊っています。
「ほほー」
おじいさんはしばらく鬼たちの祭りを見ていましたが、もうたまらなくなってきました。
「こりゃジッとしとれちゅうほうがムリじゃ」
のんきな明るいじいさんなのです。相手が人間だとか鬼だとか関係ないのです。踊るのは楽しいのです。お囃子にあわせて自然に体が動き出します。
ピーヒャラドンドン、ピーヒャラドンドン
もう止まりません。洞窟から出て、踊りながら鬼たちの輪に入っていきます。
ビックリしたのは鬼たちです。いきなり人間が割り込んできたのです。でもおじいさんの踊りがあまりに楽しいので、
「ええぞー」
「もっとやれ」
と、大喜び。おじいさんが調子に乗って扇子をくるっくるっとまわすとワーーッと盛大な拍手が起こります。
赤鬼、青鬼、黄色い鬼、入り乱れて踊り、しまいには鬼の親分が立ち上がっておじいさんと手を取りあって踊ります。お酒もだいぶ回ってきて、もうわけのわからない楽しさです。
「いやー、じいさん今夜はほんとに楽しかった。こんなゆかいな踊りははじめてじゃ。ありがとう、ありがとう。明日もまた来てくれ。それまでこのコブをあずかっておこう」
と、おじいさんのコブをカポッともぎとります。
おじいさんが頬をなでてみると…、コブがなくなって頬がツルツルになっていました。
「おお、コブが取れたコブが取れた」
おじいさんは大喜びして鬼達と別れました。
村に戻ってからおじいさんは、もう一人のイジケたおじいさんにこのことを話します。
「えっ、鬼がコブをとってくれたんか?」
じいさんはこれで長い間苦しめられたコブとおさらばできると、山に向かいます。のんきなおじいさんのマネをするつもりです。
そして洞窟にひそんで夜になるのを待ちます。
日がとっぷり暮れて、ピーヒャラドンドン鬼たちのお囃子が聞こえてきます。
ところがこのじいさん、イジケた性格でしたからお囃子をきいても心が踊らないばかりか、なんとなくイヤーな気持ちになります。
外を覗いて鬼たちの踊りを見ても、何が楽しいのかサッパリわかりません。
「じいさんはまだ来んかー!」
鬼の親分はじいさんが来るのを待っています。もうしょうがないのでヤケクソで飛び出します。
「おっ、じいさん、来たか来たか」
鬼たちの期待がおじいんさんに集まります。でもこのじいさん、いつも家の中でジーとしていて踊りなんて大嫌いですから、どうやっていいかわかりません。
それでもコブを取ってもらうためにぎくしゃくと体を動かします。いや、そのヘタなことヘタなこと。
しだいに場が白けて鬼の親分はきげんが悪くなってきます。
お囃子も止まってしまいました。
とうとう親分は
「このヘタクソ!こんなコブ返してやる!」
バシィと、ほっぺたにもう一つのコブをつけられてしまいました。