むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもゆかいな人がいました。
むかしは生活が貧しかったので、お米の飯などはあまり食べられません。
お祭りとか、お祝い事でもなければ、お米を炊かなかったのです。
それほどお米は大切な物で、そしておいしい物でした。
さて、今の時期は畑仕事も中休みで、吉四六さんは暇でした。
でも、何もしないでいても、お腹は空きます。
そしてどういうわけか、その日はやたらとお米の飯が食べたくなりました。
そこで吉四六さんは、考えました。
「何かがなければ、かみさんはお米を出してくれないだろう。何とかして米の飯を食う方法は、ねえかな? ・・・そうだ!」
次の朝早く起き出した吉四六さんは、外へ出て空を見上げました。
どんよりした天気で、今にも雨が降りそうです。
吉四六さんは一人で頷くと、急に大きな声で言いました。
「おお! そうかあ! わかったぞお!」
まるで、誰かに答える様な声です。
「それは、大変だなあ! 橋をかけるのか! よし、行くぞお!」
それから、家の中のおかみさんにむかって言いました。
「おい、今日は代官さまの言いつけで、橋をかけに行かねばならぬ。きつい仕事で、腹が減っては働けんから、米の飯を炊いて弁当を作ってくれや」
その頃は畑仕事がひまになると、よく村の仕事に駆り出されたのです。
そしてそんな時に粗末な弁当では恥をかくので、みんなは見栄を張って大切なお米を炊いたのです。
ようやく弁当が出来る頃になって、吉四六さんはふいに外へ出て行きました。
「何々? また、呼んでるな」
実は誰も呼んでいないのですが、吉四六さんが外に出る見ると吉四六さんの予想通り、ポツポツと雨が降って来ました。
吉四六さんはニンマリ笑うと、小さな声で人の声を真似て言いました。
「おーい、吉四六さんよーぉ。雨が降って来たから、橋かけは止めじゃあー」
それから、わざと大声で、
「そうか、分かったぞぉー!」
と、答えると、家の中にいるおかみさんに言いました。
「聞いたか? 今日の仕事は止めじゃ。仕方ねえから、炊けた米の飯を食おうや」
そして吉四六さんは、おいしそうにお米の飯をほおばりました。