当時の島主である十六歳の種子島時尭(たねがしまときたか)は、轟音とともに、はるか遠くの的を射抜く不思議な武器に夢中になり、種子島に漂着したポルトガル人から、今のお金で一億以上の大金で二挺の鉄砲を買い取ったのです。
そして、その鉄砲と同じ物を作らせようと考えた時尭(ときたか)は、鍛冶屋の頭領である八板金兵衛清定(やいたきんべえきよさだ)に白羽の矢を立てました。
「これは鉄砲といって、弓矢よりもはるかに強力な武器だ。使い方一つでは、日本を変えるかもしれん。金兵衛よ、これと同じ物を作ってくれ」
島主からあずかった一挺の鉄砲を、おそるおそる分解した金兵衛(きんべえ)は、寝食を忘れて鉄砲の研究をしました。
さて、金兵衛には美しく優しい娘がいて、名を若狭(わかさ)と言います。
若狭は女ながら金兵衛の仕事をずいぶんと助けて、鉄砲の研究はどんどん進みました。
しかし、どうしても銃身の底の作り方がわからないのです。
さすがの名人にもどうする事も出来ず、異国のポルトガル人にその製法を聞きました。
するとポルトガル人は、
「あはははは。銃身の底を作る技術は、われわれポルトガル人の秘密の技術です。小さな島国の原住民に開発するのは、とうてい無理でしょう。ですが、お嬢さんの若狭を嫁にくれるなら、製法を教えてもよいですよ」
と、言ってきたのです。
銃身の底をふさいでいるのは、実はただのネジだったのですが、当時の日本にはネジという物がなかったのです。
「大切な娘を、異国の人間の嫁にはやれん!」
金兵衛は、きっぱりと断り、必死に銃底の改良に取り組みましたが、どう頑張ってもうまくいきません。
そのうちにその話が、若狭の耳に入ってしまいました。
「私が異人の嫁になれば、父の助けになる」
十七歳の若狭は思い悩みましたが、父の為にポルトガル人の妻になる事を決心したのです。
こうして銃底を塞ぐネジの存在を知った金兵衛の手によって、国産第一号の鉄砲である『種子島銃』が完成したのです。
一方、ポルトガル人の妻となった若狭は、まもなく日本を去りましたが、翌年、再び島に帰ってきました。
その時、父の金兵衛は二度と若狭が連れて行かれないようにと、若狭が急死したと言って、うその葬式を出したのです。
ポルトガル人の夫はそのうそを見抜きましたが、愛する妻の若狭が故郷にいたいのならと、そのままポルトガルに帰っていったそうです。