そこで家来たちは、次々と順番に殿さまのところへ行っては、色々な話しをしました。
でもそのうちに、話す話しがなくなってしまいました。
近頃は誰も話しをしてくれないので、殿さまはとてもたいくつそうです。
「ああ、わたしがいやになるまで、話しをしてくれる者はいないのだろうか」
殿さまは話しをしてくれる者を探そうと、国中にこんなおふれを出しました。
《殿さまがいやになるまで話しをしてくれた者には、ほうびにお姫さまをお嫁にやる》
それから数日後、一人の若者がお城へやって来ました。
「お殿さまに、お話しをしにまいりました。お殿さまにお話しをして、お姫さまをお嫁さんにいただぎます」
すると家来たちが、心配そうに言いました。
「殿さまは、いくら話しをお聞きになってもあきないお方だ。大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。話しは得意です」
「そうか、では来なさい」
家来が若者をお殿さまのところへ連れて行くと、若者はさっそく話しを始めました。
「むかしむかし、あるところに、大きな大きなかしの木があったとさ」
「うんうん。大きなかしの木があったのだね。なるほど、それで」
「はい」
若者は、エヘンと一つせきをすると、話しを続けました。
「その大きなかしの木には、ドングリがいっぱいなっていました。空の星の数よりも、ずっとたくさんです」
「そうか。かしの木にドングリがなったのか。なるほどなるほど。それで」
「かしの木は、池のはたにありました。池には、石がありました。大きな石で、カメのせなかのように、水にポッカリういていました」
「ほう、かしの木は、池のはたにあったのだね。池には石があって、カメのせなかのように水の上に出ていたのだね。なるほどなるほど。それからどうした」
「はい。ここからが、おもしろいところです」
若者はまたせきを一つすると、話しを続けました。
「ドングリが、ポロンと石におちたとさ。
コロコロころんで、池へジャボン。
しばらくすると、また一つ。
ドングリが、ポロンと石におちたとさ。
コロコロころんで、池へジャボン。
しばらくすると、また一つ。
ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
コロコロころんで、池へジャボン。
しばらくすると、また一つ。
ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
コロコロころんで、池へジャボン。
しばらくすると、また一つ。
ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
コロコロころんで、池へジャボン。
しばらくすると・・・」
「まてまて」
殿さまは、若者の話をとめました。
「それからドングリが一つ、ボロンと石におちたのだろう?」
「はい、その通りでございます」
「コロコロころんで、池へジャボン。そうだろう?」
「はい、その通りでございます」
「そこまではわかった。その先を話せ」
「はい」
若者はおじぎをすると、話を続けました。
「しばらくすると、また一つ。
ドングリが、ポロンと石におちたとさ。
コロコロころんで、池へジャボン。
しばらくすると、また一つ。
ドングリが、ポロンと石におちたとさ。
コロコロころんで、池へジャボン。
しばらくすると、また一つ。
ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
コロコロころんで、池へジャボン。
しばらくすると、また一つ。
ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
コロコロころんで、池へジャボン。
しばらくすると・・・」
「ちょっとまて」
殿さまは、むずかしい顔で若者に言いました。
「そんなにおちたのなら、ドングリはもう、みんなおちてしまったろうな」
「いいえ、まだまだでございます」
若者は、両手を大きく広げました。
「大きな、大きな、かしの木でございます。ドングリの数も、空の星よりもたくさんあるのでございます。お話しは、まだまだ続きます。
しばらくすると、また一つ。
ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
コロコロころんで、池へジャボン。
しばらくすると、また一つ。
ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
コロコロころんで、池へジャボン。
しばらくすると、また一つ。
ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
コロコロころんで、池へジャボン。
しばらくすると・・・」
若者の話しは、いつまでもいつまでも同じでした。
「まてまて。もうよい。その話し、いつまで続くのかね」
「はい。まだまだでございます。こんな大きなかしの木です。ドングリは、空の星よりもたくさんあるのでございます。そのドングリが一つものこらずおちるまで、このお話しは続くのでございます。
しばらくすると、また一つ。
ドングリが、ボロンと石におちたとさ。
コロコロころんで・・・」
「やめてくれ。もうたくさんだ」
殿さまは、とうとう話しにあきてしまいました。
こうして若者は約束通り、お姫さまをお嫁にもらったということです。