そのうわさは隣近所の町や村にまで広がり、とうとう、お城の殿さまの耳にまで入りました。
「そんなに利口なら、一つとんちの力試しをしてやろう」
こうして彦一は、お城に呼ばれたのです。
彦一が、お城の大広間でかしこまっていると、やがて現れた殿さまが言いました。
「そちが、ちまたで評判の彦一じゃな。
くるしゅうない、面(おもて→顔)を上げい。
・・・ほほう、利発(りはつ→かしこそう)な顔をしておるな。
ところで余にも、お前くらいの若が一人おる。
その方、これからは若の遊び相手をしてやってくれ」
殿さまはこう言ったあと、家来の者に若さまを呼びに行かせました。
やがてふすまが開いて、一人、二人、三人、四人、五人と、同じ着物を着た子どもがぞろぞろと入ってきました。
着物だけではありません。
五人とも、兄弟の様に顔がよく似ています。
「どうじゃ彦一。
お前に本当の若が当てられるか?
さあ、うわさに聞く知恵で見事当てたら、褒美をつかわすぞ」
周りにいた家来でさえ、若さまを当てる自信がありません。
それを若さまを見た事のない子どもが見ただけで分かるはずがないと、殿さまは得意顔(とくいがお)です。
「さあ、どうした。無理なら無理と、正直に言うがよい」
ところが彦一は、ニコニコしながら言いました。
「どの子も同じように見えますね。
しかしわたしには、本物の若さまはちゃんと分かります。
本物の若さまは、手習いの後と見えて、手に墨(すみ)が付いていますよ」
この言葉につられて、本物の若さまは自分の手を見て、他の子どもはそれをのぞき込みました。
ところがどこを探しても、墨はついていません。
「殿さま。そのお方が、若さまです」
彦一の賢さに、殿さまはすっかり感心して、
「これはまいった。約束通り、褒美をつかわそう」
こうして彦一は、山の様な褒美をもらう事が出来たのです。