むかしから、夏の食べ物と言えばスイカで、吉四六さんの村でもスイカを作っていました。
しかし最近は夜になるとスイカ畑に忍び入り、よく出来た甘くておいしそうなスイカを片っ端から盗んで行く、スイカ泥棒が現れたのです。
「せっかくのスイカを、何て腹の立つ奴だ! 今夜こそ、ひっとらえてやるぞ!」
村人たちは見張り小屋を建てて、一晩中スイカ畑を見張っていますが、スイカ泥棒を捕まえるどころか、ちょっと油断したすきにまた新しいスイカを盗まれてしまうのです。
吉四六さんの畑もやられてしまったので、いまいましくてたまりません。
「うーむ。何か良い工夫はないものだろうか?」
昼間の畑仕事をしながら、吉四六さんは考えていましたが、
「・・・そうだ、これでいこう!」
と、何か名案を思いついて、急いで家に戻って来ました。
そして大きなわら人形を作ると、それに自分の着物を着せて、手ぬぐいでほおかむりをしました。
かかしの出来上がりです。
「我ながら、なかなかの出来だ」
さっそく吉四六さんは、そのかかしをかついで自分のスイカ畑へ行きました。
それを見た村人たちは、吉四六さんに声をかけました。
「おいおい、吉四六さんよ。そんなかかしを持って、どうするつもりだ?」
吉四六さんはスイカ畑のまん中にかかしを立てると、まじめな顔で答えました。
「何って、見ればわかるだろう。これは泥棒よけだ。毎晩毎晩、番小屋で夜明かしするのは、大変だからなあ」
「泥棒よけだって?」
それを聞いて、みんなは大笑いです。
「あははははは、こいつはいい!」
「吉四六さん、お前、どうかしてるんじゃないのか? スイカ泥棒はカラスじゃなくて、人間だよ」
しかし吉四六さんは、ニッコリ笑うと、
「なあに、世の中には、カラスよりも馬鹿な人間もいるんだよ」
と、さっさと帰ってしまいました。
「はん。何を言ってやがる。人間がかかしを怖がるはずないだろうに」
「吉四六さん、むかしから頭が良いのか悪いのか、よくわからねえ人だったが、やっぱり馬鹿だ」
「そうに違いない。あははははは」
村人は、腹をかかえて笑いました。
そして道を通る人たちも、
「おやおや、あのスイカ畑には、かかしが立っているぞ。泥棒よけだそうだが、何とも変わった百姓がいたもんだ」
と、笑いながら過ぎて行きました。
さて、夜になりました。
村人たちは今夜も夜明かしで見張りをするつもりで、それぞれ自分たちの見張り小屋に泊まり込みました。
ですが、吉四六さんの小屋には、誰一人姿を見せません。
「おや? 吉四六さんめ、本当にかかしが泥棒よけになると思っていやがる。知らねえぞ、明日になって、スイカが一つ残らず盗まれても」
今夜は雲が多く月も星もない真っ暗闇で、泥棒にはもってこいです。
するとやはり、どこからともなく現れた二つの黒い影が、そろりそろりとあぜ道に入って来ました。
そして、
「おいおい、馬鹿な奴もいるものじゃ。畑にかかしなんか立てて、番小屋はお留守だぜ」
「こりゃ、ありがたい。カラスと人間を間違えるとは」
「全くだ。おかげで今夜は、うんと稼げるというものだ」
二人の泥棒は、吉四六さんの畑に入り込みました。
そして出来るだけ大きなスイカを取ろうと、手探りで畑の中を探し回っていると、かかしのそばまでやってきました。
すると突然、
♪ポカッ
と、いう音がして、泥棒の一人が悲鳴をあげました。
「あいた! おい、なんだって、おれの頭を殴るんだ?」
「はあ? おれは殴らないぞ。あいた! お前こそ、おれを殴ったじゃないか!」
「馬鹿いうな。なんでおれが殴るものか。お前こそ、あいた! こら、また殴ったな!」
二人は思わず後ろを振り返り、そしてびっくりしました。
なんと後ろに立っていた大きなかかしが、大きな声で、
♪ケッケケケケー
と、笑い出したのです。
「お、お、お化けだー!」
「た、た、助けてくれー!」
二人はあわてて逃げ出そうとしましたが、スイカのつるに足をとられて、その場に倒れてしまいました。
するとかかしが、倒れた泥棒の上にのしかかると、
「おーい、村の衆! 泥棒を捕まえたぞ! 早く早く!」
と、大声で叫びました。
なんとその声は、吉四六さんの声でした。
そして騒ぎを聞きつけた村人たちが、あわてふためく泥棒を捕まえたのです。
実は吉四六さん、わらで作った服を着て、こっそりかかしと入れ替わっていたのです。
「どうだい。かかしに捕まる、カラスよりも馬鹿な人間がいただろう」
吉四六さんは、ゆかいそうに笑いました。