男は畑仕事が終わると、いつも海で牛の体を洗ってあげるのです。
ある日の事、いつものように牛を洗ったあと、男は急に眠たくなったので、岩に座ったまま眠り込んでしまいました。
「モウー」
しばらくして牛の鳴き声に目を覚ました男が牛の方を見てみると、なんと牛が岩穴の中へ引き込まれているのです。
「ま、待て、おらの牛が」
男はあわてて牛の首のつなを引っぱりましたが、いくら引っ張ってもびくともしません。
(これは、どういう事だ?)
男が、ふと下を見るとどうでしょう。
ものすごい数のアリが集まって、牛を岩穴に運んでいるのです。
「なにくそ! アリなんかに、負けるものか!」
男は力一杯つなを引っぱりましたが、引っ張り出すどころか反対に自分までずるずると岩穴の中に引きずり込まれてしまいました。
(ああ、もう駄目だ!)
そう思った時、あたりがパッと明るくなりました。
「おや? ここはどこだ?」
何とそこは広々とした原っぱで、きれいにたがやした畑があります。
男がぽかんとしていると、畑にいた人がそばへやってきて言いました。
「すみませんが、あなたが眠っている間に牛を貸してもらいました。おかげで、畑をたがやす事が出来ました」
畑の人はにこやかに言ったのですが、男は怖くてたまりません。
「助けてください! 牛はあげますから、どうか命ばかりは!」
すると畑の人は、
「いやいや、命を取るなんてとんでもない。
あなたが連れてきてくれた牛のおかげで、畑がたがやせたのです。
さあ、少ないですがこれはお礼です。
どうぞ、受け取ってください」
と、たくさんのお金を差し出しました。
そのお金は、牛が何頭も買えるほどの大金です。
「えっ? 牛を貸しただけで、こんなに?」
「はい。ただしここで見た事は、だれにも言わないでくださいね。
そのかわりお金がなくなったら、いつでも取りに来てかまいませんから」
気がつくと男は、牛と一緒に岩穴の外にいました。
それから男は何度もお金をもらいに行って、たちまち大金持ちになりました。
ある日の事、男の友だちが尋ねました。
「お前、どうして急に大金持ちになったのだ?」
「ああ、実はな」
男は誰にも言わないという約束を忘れて、友だちに岩穴の事を話したのです。
「まさか。そんなうまい話、誰が信じるものか」
「本当だとも。なんなら今から、その岩穴へ連れて行ってやる」
男はそう言うと、友だちを岩穴のところへ連れて行きました。
「さあ、ここだ。この岩穴に・・・。ああっ! 岩穴がふさがっている!」
何と岩穴がふさがっていて、どうやっても中へ入る事が出来なかったのです。
その後、男は何をやっても不運続きで、ついには前よりもひどい貧乏になったという事です。