その吉四六さんの住む村には、両方のほっぺたに大きなこぶのあるおじいさんが住んでいました。
そのこぶは、ほうっておいても何の害もないのですが、こぶが気になって仕方のないおじいさんは、そのこぶを治そうとあちこちの医者に診てもらいました。
しかし、こぶはいっこうに治らず、高い薬代のおかげで家はだんだん貧しくなっていきました。
それでもおじいさんはあきらめず、江戸(えど→東京都)の名医に診てもらう費用を得る為に、自分の家を売ってしまおうと考えたのです。
これを知った息子の太郎兵衛は、あわてて吉四六さんに相談しました。
「何とかして、家のじいさまに、こぶの療治をあきらめさせる法はないものだろうか?」
すると吉四六さんは、にっこり笑って言いました。
「よし、おれに任せろ。明日、おれが行ってこぶを取ってやるからな」
次の朝、吉四六さんは腰に手オノをさして、手にはざるを持ち、おじいさんの家の前に立って大声をあげました。
「えー、こちらは、こぶ屋です。こぶはありませんか。こぶがあったら高く買いますよー」
すると思った通り、おじいさんが飛び出してきました。
「こぶを買い取るとは、本当か!」
すると吉四六さん、とても真面目な顔で言いました。
「はい、わしは昨日山に行って天狗からこぶの注文を受け、こぶ取りの術を教わってきました。おじいさん、あんたのこぶが不用なら、わしに売ってくれませんか。値段は一つ八文だから、両方で十六文だ」
「何と、それはありがたい! こぶを取る為には、家を売ってもかまわないと思っていたところだ。それが十六文で売れるなんて。さあ、早く取ってくれ」
おじいさんは大喜びで、こぶを売る事にしました。
吉四六さんはこぶ代の十六文を払うとおじいさんを土間に座らせて、
「ちんんぷいぷい、うんたらかんたら・・・」
と、 適当な呪文を唱えながらこぶをなでていましたが、突然、右手に隠していた手オノを振り上げたのです。
それを見たおじいさんは、びっくりして叫びました。
「吉四六さん! 何をするつもりだ!?」
「何って、この手オノで、こぶを切り落とすんだ!」
「め、めっそうな! そんな事をしたら、命がなくなってしまう」
「かもしれねえが、別にあんたの命がどうなろうと関係ない。ただわしは、こぶだけを買ったのだから」
「吉四六さん、許してくれ! もうこぶは売らない」
「では、こぶがおしくなったのか?」
「うん、おしくなった!」
すると吉四六さんは、やっと手オノを下に置いて、
「じゃ、今日は止めておこう。だが、こぶの代金は払ってあるのだから、大事にしまっておいて下さいよ」
そして吉四六さんは、隣にいた息子の太郎兵衛に言いました。
「太郎兵衛、お前が証人だ。おじいさんがこぶを邪魔だと言ったら知らせてくれ。すぐに取りに来るから」
「うん、わかった。じいさまがちょっとでもこぶを邪魔だと言ったら、すぐに知らせるよ」
それからおじいさんは、こぶを取る事をあきらめたという事です。