川のこちら側に住んでいる村人たちは、向こう岸へ行くには川を渡らなければなりません。
でもその川には、橋がありません。
それと言うのも何度橋を作っても、大雨が降ると川の流れが激しくなって橋が流されてしまうからです。
「何とかして、雨にも風にも大水にも負けない丈夫な橋をかけなければ」
村人たちは話し合って、日本一の橋作り名人と言われる大工に頼む事にしました。
「よし、引き受けた!」
大工はそう言って、さっそく川岸へやって来ました。
ところが、その川の流れの速さを見てびっくりです。
「こんなに流れの速い川を見たのは、始めてだ。どうしたら、これに負けない丈夫な橋をかける事が出来るのだろう?」
大工は、考え込んでしまいました。
すると川の真ん中から、大きな鬼がヌーッと現れました。
「話は、聞いたぞ。丈夫な橋が欲しいのなら、おれが橋をかけてやろうじゃないか」
「それは、ありがたい。ぜひとも、橋をこしらえてくれ」
「よし、約束しよう。その代わりに橋が出来たら、お前の目玉をもらうぞ」
鬼はそう言うと、パッと消えてしまいました。
次の朝、大工が川にやって来ると、もう大きくて立派な橋が出来ていました。
村人たちは、大喜びです。
けれど大工は、困ってしまいました。
鬼との約束で、目玉を取られてしまうからです。
(大事な目玉を、取られてたまるか)
大工はこっそりと、山奥へ逃げて行きました。
すると山奥のもっと奥から、不思議な歌が聞こえて来ました。
♪大きな鬼の、鬼六さん。
♪人間の目玉を、おみやげに。
♪早く帰って、来ておくれ。
「あれは、鬼の子どもが歌っているんだな。この山は鬼の住みかで、鬼の子どもがおれの目玉を欲しがっているんだ」
歌を聞いた大工は、あわてて山から逃げ出しました。
そして着いた先が、あの橋の近くだったのです。
「しまった! またここに戻ってしまった」
大工は再び逃げ出そうとしましたが、そこへあの鬼が現れたのです。
「どこへ逃げても無駄だ。約束通り、目玉をもらうぞ」
「どうか、かんべんしてくれ。目玉がなくなったら、仕事が出来ねえ。仕事が出来なければ、家族が困るんだ」
大工が一生懸命に頼むと、鬼は言いました。
「家族か。おれにも家族がいるから、お前の気持ちはよく分かる。・・・よし、かんべんしてもらいたかったら、おれの名前を三べん言ってみろ」
「名前を?」
鬼の名前なんて、大工は知りません。
そこで、適当に、
「鬼太郎」
「ちがう!」
「鬼一郎、鬼次郎、鬼三郎、鬼四朗、鬼五郎・・・」
「ちがう、ちがう。ちがうぞ!」
その時、大工はあの不思議な歌を思い出しました。
「そうだ、鬼六だ。鬼六、鬼六、鬼六!」
大工は、大声で叫びました。
すると鬼はびっくりして、
「何で、知っているんだー!」
と、逃げる様にいなくなってしまいました。