むかしむかし、きっちょむさんと言う、とんちの上手な人がいました。
むかしは、ところどころに関所というものがあって、通る人や荷物をきびしく調べていました。
きっちょむさんの村から町へ行くのにも、この関所を通らなければなりません。
ところが、この関所には悪いの役人がいて、
「こらこら!
そのとっくりの中身は、何じゃ?!
何か良くない物を、隠しておるのではないだろうな!
今から、取り調べてやる」
と、役人は荷物の中にお酒を見つけると、取り調べと言いながらお酒を飲んでしまうのです。
そこでこまった村人たちが、きっちょむさんに頼みました。
「きっちょむさん。 お前さんのとんちで、あの役人をこらしめてはくれんか?」
役人のうわさを聞いていたきっちょむさんは、すぐに引き受けました。
「よし、まかせておけ。その役人が、二度と酒を飲まないようにしてやる」
きっちょむさんはそう言うと、さっそく町へお酒を買いに出かけました。
町からお酒を買って帰ろうとすると、あの役人がさっそくきっちょむさんを呼び止めました。
「こらこら! そのとっくりの中身は、何じゃ?!」
するときっちょむさんは、わざとこまった顔で答えます。
「はい。これは、その・・・。実は、小便が入っております」
「何、小便じゃと? ・・・ほうほう、多少は知恵を使ったようだが、このわしには通用せんぞ」
役人は、とりあえず用心にとっくりのにおいをかぐと、ニンマリと笑って中のお酒をうまそうに飲み干しました。
「うむ、これは上物。なかなかに、うまい小便じゃ。よし、行ってよし!」
空になったとっくりをきっちょむさんに返した役人は、満足そうに言いました。
さて、それから三日後、きっちょむさんはまた町へ行くと、とっくりを下げて関所を通りました。
するとやっぱり、あの役人が呼び止めます。
「こらこら! そのとっくりの中身は何じゃ?!」
「はい。これは、その、小便が入っております」
きっちょむさんが答えると、役人はきっちょむさんを見てニンマリと笑いました。
「おおっ、お前はこの前の。少しは知恵があると思ったが、またこりずに小便とはな」
役人はきっちょむさんからとっくりを取り上げると、今度はにおいもかがずに、いきなりゴクゴクと飲みました。
しかしすぐに目を白黒させて、飲んだ物をはき出しました。
「ブーーッ! こ、こ、こら! これは、何じゃい! きさま! わしに小便を飲ませたな!」
役人は刀を抜くと、きっちょむさんに詰め寄りました。
ですがきっちょむさんは、平気な顔で言いました。
「だからわたしは、小便と申し上げましたよ」
「むっ、むむむむ」
これには役人も、返す言葉がありません。
役人は刀をおさめると、きっちょむさんに言いました。
「この、この正直者め。行ってよし!」
それから役人は関所を通る人の荷物にお酒を見つけても、もう飲もうとはしなかったそうです。