ある朝の事、きっちょむさんは朝ご飯を食べようとご飯を用意したのですが、今日はお金がないのでおかずがありません。
「おかずのないご飯というのは、さみしいものだな。
ぜいたくは言わないが、焼き魚の一つも食べたいものだ。
何とかして、魚を手に入れる方法はないだろうか?」
そう考えたきっちょむさんは、ふと、この村の金持ちのだんなが大の猫好きなのを思い出しました。
「そう言えば、そろそろだんなが散歩でこの家の前を通る時間だな。
・・・だんなは、猫が好き。
・・・猫は、魚が好き。
・・・そしてわしは、魚が食べたい。
よしよし、こいつはいけるぞ」
名案を思いついたきっちょむさんは空の皿を一枚用意すると、近所に住んでいるノラ猫を一匹連れて来ました。
そして金持ちのだんながきっちょむさんの家の前を通りかかったのを見計らって、きっちょむさんは連れて来たノラ猫を大声でしかり始めたのです。
「この猫め!
よくも、大切な魚を盗みよって!
お前の様な泥棒猫は、こうしてくれるわ!
えい! えい! えい!」
その声にびっくりした金持ちのだんなは、あわててきっちょむさんの家の戸を叩きました。
「きっちょむさん、どうしたんじゃ?! 猫が、猫が何かしたのか?!」
するときっちょむさんは、金持ちのだんなに空の皿と猫を見せて、
「どうしたもこうしたも、この猫が、わしの大切な魚を食ったんだ!
せっかくの、朝ご飯のおかずが!
泥棒猫め、こうしてくれるわ!」
と、まっ赤な顔で猫をなぐりつけようとするので、猫がかわいそうになった金持ちのだんなは大あわてできっちょむさんを止めると、
「待て待て、そんなに猫をしかってはかわいそうじゃ。
取られたのは、魚だな。
よし、すぐに戻って来るから、ちょっと待っておれよ」
と、さっそく市場まで魚を買いに行って、その魚をきっちょむさんの空の皿にのせてやりました。
「きっちょむさん。今日のところは、どうかこれで猫を許してやってくれ」
それを聞いたきっちょむさんは、
「うーん。まあ、だんながそう言うのなら」
と、猫を逃がしてやりました。
さて、金持ちのだんなが帰ってしまうと、きっちょむさんは家の裏口からさっきの猫を呼び入れて、手に入れた魚を半分に切って渡しました。
「よしよし、お前のおかげで、おかずが手に入ったわい。これは、お礼だよ」。