そこでお寺へお坊さんを呼びに行きましたが、お坊さんが留守(るす)で小僧(こぞう)さんしかいません。
でも小僧さんなら、お経ぐらいよむ事が出来ます。
「小僧さん。わたしの家へ、法事に来てください」
「はいはい、わたしでよかったら、すぐまいります」
小僧さんはさっそく、お坊さんの衣を着てやって来ました。
「では、はじめさせていただきます」
小僧さんがおじぎをして、さて、お経をよもうと思ったら、ふところにお経の本がありません。
あわててやって来たので、持って来るのを忘れてしまったのです。
この小僧さんは、本がなくてはお経がよめません。
(こりゃ、困ったぞ)
そう思って窓の外を見ると、軒下(のきした)になっぱの束(たば)が干してありました。
小僧さんは、いかにもお経のように、その数をかぞえはじめました。
「一れん、二れん、三れん、四れん、ああ、五れん、六れん、・・・」
一れんというのは、なっぱをつるしてある一本のナワのことで、一れん、二れんとかぞえます。
小僧さんはなっぱの束をかぞえ終わると、またはじめから、
「一れん、二れん、三れん、四れん、・・・」
と、そればっかりです。
窓の外でそれを聞いていた子どもが、小僧さんに言いました。
「小僧さん、それ、なんというお経じゃ」
「これは干しな経といって、とてもありがたいお経じゃ」
「へえ、そんなら、あっちにもまだ、二、三れん、つってあるよ」
すると小僧さんは、
「いや、それはこの次に来たとき、よむつもりじゃ」
と、言ったという事です。