娘はまだ子どもでしたが、身体の弱い母親の為に一生懸命に働き、仕事の帰りには母親の薬と食べ物を買って帰る毎日を続けていました。
そんな健気な親孝行ぶりが評判になって、お城にいる殿さまの耳にも届いたのです。
「病気の母親の為に働くとは、今どき感心な話だ。
若い娘らしいが、何かほうびを取らせてやりたいのう。
これ、誰か行って、その評判が本当かどうか確かめて来い」
殿さまに命令された家来が、さっそくその村へ行って色々と聞き回りました。
するとその評判は大したもので、誰もが口々にその娘をほめるのです。
それを聞いた家来も、自分の事の様に嬉しくなって、
「素晴らしい。早く、その娘を見たいものだ」
と、急いでその親子の住んでいる家に行きました。
そして障子の穴から中の様子を見てみると、ちょうど晩ご飯を食べているところでした。
(うわさ通りの娘なら、きっと自分は粗末な物で我慢をして、母親に栄養のある物を食べさせているだろう)
家来はそう思って見ていたのですが、よくよく見てみると母親は黒っぽい妙なご飯を食べているし、娘は白いご飯を食べているのです。
(はて? 聞いていたのとは大違いだな。まあ、たまにはそんな事もあるのかもしれない)
家来はそう考えて、なおも観察していると、娘はご飯を食べ終わった後、食事の後片付けもしないで、母親がまだ湯を飲んでいるのに、さっさとふとんに入って寝てしまったのです。
(なっ、なんだこの娘は! 親孝行どころか、まったくもって親不孝な娘だ! けしからん!)
家来はカンカンに怒って、お城へ帰ると見て来た事を殿さまに伝えました。
「親孝行のうわさなど、全くのでたらめです。
近所でも評判が良いので期待をしていたのですが、まったく、家の内と外では大違い。
何と病人の母親には黒い妙なご飯を食わせておいて、自分は白いご飯を食べているのです。
おまけに母親がまだ食べ終わらないうちに、あの娘はゴロリとふとんに潜り込んでしまうのです」
それを聞いた殿さまも、カンカンに怒りました。
「それがまことなら、評判とはあべこべではないか!
そんな娘は、ほうびどころか、きつく罰を与えねばならぬ!
明日にでも、その娘を召し出せ!」
次の日、娘はお城に召し出されました。
その娘を、殿さまが直々に取り調べます。
「お前は母親に、黒い、まずそうな物を食わせて、自分は白い飯を食っていると言うが、それはどういうわけだ?!」
すると娘は、びっくりした様子で答えました。
「わたしの家は貧乏で、白いお米のご飯は食べられません。
病気のお母さんには少しでも力がつく様にと、粟の入ったご飯を食べてもらっています。
そしてわたしは、豆腐屋さんにオカラを分けてもらって、それを食べているのです」
「へっ? そうなのか?
・・・しかしそれでは、母親がまだご膳が終えないうちに、お前は夜具の中へ入って寝るというが、それはどういうわけだ?!」
「はい。それはそのまま寝ては、お母さんが寝る時にふとんが冷たいからです。
わたしが先にふとんに入って、ふとんを温めていたのです」
「なるほど。
母親の黒いのは粟飯で、お前のは白米ではなくオカラであったか。
う―ん、お前は毎日そうしているのか?」
「はい、お米なんて、とても買えませんから」
「そして夜具も、お前が温めていたのだな」
「はい」
それを聞いた殿さまは、思わず涙をこぼしました。
「なんとも、けなげな事よ。すまぬ、わしは、とんでもない勘違いをしてしまった」
そして家来に命じて、たくさんの褒美を持ってこさせました。
「お前に、この褒美をやろう。これからも、親孝行を続けるのだぞ」
こうして親孝行な娘と母親は、殿さまにもらった褒美で一生幸せに暮らしたいう事です。