ある日の事、お金持ちの加平(かへい)さんが『ごちそうをしますから』と、一休さんを家に呼びました。
一休さんが喜んで加平さんの家に行ってみると、おぜんにはたくさんのごちそうが並んでいました。
「これはすごい。では、いただきます」
一休さんがおはしを持って、おわんのふたを取ろうとした時です。
「一休さん。そのおわんは、ふたを取らないで食べて下さい」
と、加平さんが一休さんに言ったのです。
それを聞いた一休さんは、ピーンと来ました。
(ははーん。わたしのとんちを、試そうとしているのだな)
一休さんはニッコリ笑うと、
「では、お汁はあきらめて、他のごちそうをいただきましょう」
と、おわんには手をつけずに、他のごちそうだけを食べていきました。
すると加平さんは、
「一休さん。
そのおわんには、本当においしいお汁が入っています。
是非とも、召し上がって下さい」
と、言うのです。
そこで一休さんは、こう言いました。
「せっかくのお汁も、すっかり冷めてしまいました。
すみませんが、おわんのふたを取らないで温かい物と取り替えて下さい」
「・・・・・・」
おわんのふたを取らずに、中のお汁を取り替える事は出来ません。
でもそれを言うと、『そのおわんは、ふたを取らないで食べて下さい』と言った、加平さんの言葉が間違っていた事になります。
これを聞いた加平さんは思わず手を打って、一休さんに頭を下げました。
「いや、これは参りました。
あなたは、うわさ通りのとんちの持ち主ですなあ。
おわんの中身は、ふたを取って温かい物と取り替えてきますので、どうぞ一休さんも、ふたを取って召し上がってください」
この事がみんなに知れ渡り、一休さんのとんちはますます評判(ひょうばん)になりました。