この西郷隆盛は、ちょっと変わった行動をする事でも有名だったそうです。
このお話しはその西郷隆盛の、ちょっと変わった笑い話です。
ある日の事、西郷さんはお百姓の家で、ふかしたてのサツマイモをごちそうになりました。
「おおっ、うまかサツマイモだ」
そのサツマイモを気に入った西郷さんは、ざるに盛り上げたサツマイモを一人で全部たいらげた上に、お土産として一俵もサツマイモをもらったのです。
ですがいくら力持ちの西郷さんでも、一俵(→約50㎏)のサツマイモをかついで帰るのは大変です。
そこで西郷さんはお百姓に馬を貸してもらうと、ポックリポックリと上機嫌で帰って行きました。
ところが途中の坂で馬がよろけて、背中のイモ俵を落としてしまったのです。
落ちたイモ俵からサツマイモが飛び出して、坂道をコロコロコロコロと転がって行きました。
「しもうた。イモが、逃げおるわい」
ところが西郷さんは、転がって行くサツマイモを拾おうとはしません。
それどころか馬に向かって、こう文句を言ったのです。
「イモが逃げたのは、お前の不注意だ。待ってやるから、お前が始末せい」
そして西郷さんは、のんびりとタバコをふかし始めました。
しかしいくら西郷さんに文句を言われても、馬がイモを拾うはずがありません。
馬は気持ちよさそうにタバコをふかす西郷さんの隣で、じっと立っていました。
そこへ通りかかったお百姓が、道いっぱいに散らばったサツマイモを見て西郷さんに尋ねました。
「こりゃあ、どうしたんですか?」
すると西郷さんは、大きくタバコをふかしながら言いました。
「なあに、馬がイモをこぼしたで、『自分がした事は、自分で始末せい』と、教えとるところです」
「・・・はあ。馬にですか」
お百姓は、あきれてしまいました。
(この西郷さんは偉いお人だそうだが、何とも変わったお人だ)
お百姓はサツマイモを拾い集めると、元の様に馬の背中に乗せて、そのまま行ってしまいました。
さて、それからしばらくしてようやくタバコを吸い終えた西郷さんは、大きなあくびをすると馬の方に向き直りました。
「おおっ、ちゃんと自分で始末できたな。やれば出来るじゃないか」
西郷さんは馬の手綱を取ると、何事もなかったかのようにポックリポックリと帰って行ったそうです。