「ひどい雪だな」
「まったくだ。これじゃ、商売にならん」
話しながら歩いているうちにも雪はだんだん激しくなり、とうとう吹雪になりました。
「これは、下手に動き回ると危ないぞ」
「仕方ない。しばらく、じっとしていよう」
二人は雪の中で身を寄せ合い、じっと座っていました。
やがて辺りが、だんだんと暗くなってきました。
「ああ、お腹がへったなあ」
柿売りは、売り物の柿を食べ始めました。
それを見て、唐辛子売りはゴクリとつばを飲み込みました。
「すまんが、わしにも柿を分けてくれないか。その代わりに、わしの唐辛子をやるから」
すると、柿売りは、
「とんでもない。唐辛子なんか、腹の足しになるもんか」
と、柿をしっかりと抱きしめました。
「・・・」
唐辛子売りは仕方なく雪で団子を作ると、その上に唐辛子の粉をふって食べてみました。
「!!!」
唐辛子の雪団子は辛いばかりで、ちっともおいしくありません。
それでもがまんして飲み込むと、お腹の中がきゅっと熱くなりました。
「ひえっー!」
唐辛子売りは、目から涙をこぼしました。
それを見て、柿売りが鼻で笑います。
「それみろ。唐辛子なんか、食えるもんか」
柿売りはそう言って、また一つ柿を食べました。
さて、柿と言う食べ物には、体を冷やす効果があります。
柿売りは雪の中で冷たい柿を何個も食べたので、体が冷えてガタガタと震え出しました。
一方、唐辛子と言う食べ物には、体を温める効果があります。
唐辛子の粉を振りかけた雪団子を食べた唐辛子売りは、手足に汗をかくほど体が温まってきました。
「うーっ、寒い寒い」
「あーっ、なんだか汗ばんできたな」
寒さに平気な唐辛子売りを見て、寒さに震える柿売りが言いました。
「すまんが、わしにも唐辛子を分けてくれないか。その代わり、わしの柿をあげるから」
「とんでもない。柿なんか食っても、体が冷えるばかりだ」
唐辛子売りは、唐辛子の包みをしっかりと抱きしめました。
「・・・」
やがて吹雪は、ますます強くなってきました。
唐辛子売りは、それからも唐辛子の雪団子をせっせと食べました。
おかげで体が火の様に熱くなり、顔がまっ赤になりました。
さて、朝になってようやく雪がやんだ時、唐辛子売りはとても元気でしたが、柿売りはすっかり冷たくなっていたそうです。