ある日の事、お城から彦一のところへ、こんな知らせが届きました。
《若さまの誕生祝いをするから、庄屋(しょうや)と他に村の者を六人合わせた八人で城へ参れ。人数は、きっかり八人で来るように》
それを知った庄屋さんは、大喜びです。
「お城からお呼びがかかるとは、ありがたい事だ」
しかし彦一は、その手紙を見ながら考えました。
「八人きっかりと、念を押しているところがあやしいな。あの殿さまの事だ、また何か企んでいるに違いないぞ」
さて、お城へ行く日になりました。
彦一と庄屋さんは、村人の六人と一緒に言いつけ通りの八人でお城に向かいました。
庄屋さんと彦一以外の六人は、生れて初めて入るお城に緊張しています。
「お城では、どんなごちそうが出るんだろう?」
「おら、ごちそうの食べ方なんて、知らねえぞ」
「おらもだ。失礼があったら、どうしよう?」
すると、彦一が言いました。
「大丈夫。庄屋さんの真似をすればいいんだよ」
「そうか、それもそうだな」
そう言っている間に、八人はお城の大広間に通されました。
大広間では、すでに若さまのお誕生日を祝う会が始まっています。
正面の高いところから殿さま、奥さま、若さま、そして大勢の家来たちやお付きの人たちが並んでいます。
その前に進み出た庄屋さんが、深々と頭を下げてあいさつをしました。
「若さまのお誕生日、おめでとうございます」
「おう、参ったか。うむ、きっかり八人で来たな。わははは」
殿さまの笑い声からすると、やはり何かをたくらんでいる様子です。
「さあ、苦しゅうないぞ。遠慮なく、こっちへ参れ。若もその方が、喜ぶからな」
言われて彦一たちが前に進み出ると、殿さまはニヤリと笑いながら言いました。
「ああ、それから彦一に、注文をいたすぞ。
彦一は、並んだ八人のちょうど真ん中に座る様にいたせ。
よいな。
それが出来なければ、すぐに帰るがよい」
やはり彦一たちを八人で呼んだのは、殿さまのはかりごとだったのです。
家来やお付きたちはみんな飲み食いを止めて、彦一がどうするかと見つめました。
人数が五人とか七人とか九人だったら、ちょうど真ん中に座る事が出来ます。
けれど八人では、そうはいきません。
「あの小僧。知恵者だと評判だが、どうするつもりだろう?」
「しかし殿さまも、お人が悪い。八人ではどう考えても、真ん中に座れないではないか」
それを聞いた庄屋さんは、彦一のそでを引いて言いました。
「彦一。八人ではどう考えても、真ん中に座るのは無理だ。ここは、謝って帰ろう」
でも彦一は、ニッコリ笑って殿さまに言いました。
「殿さま。わたしが真ん中に座れば、どのような座り方をしてもいいのですか?」
「ああ、良いとも。ただし、上に重なったりしては駄目だ」
「承知しました」
彦一は振り返ると、庄屋さんや村人たちに言いました。
「みんなでわたしを囲んで、丸く座って下さいな」
みんなは言われた通り彦一を中心(ちゅうしん)にして、丸く車座(くるまざ→輪になって座る事)に座りました。
これなら七人でも八人でも、ちゃんと真ん中に座る事が出来ます。
それを見た殿さまは、思わず手を叩いて言いました。
「うむ、あっぱれ! 彦一よ、この勝負はそちの勝ちじゃ!」
殿さまの言葉に、家来も庄屋さんたちも大喜びです。
こうして彦一のとんちのおかげで、庄屋さんたちみんなはおいしいごちそうにありつける事が出来たのです。