「すまんが、宿(やど)が見つからないでこまっておる。今夜一晩、泊めてくだされ」
すると中から、おばあさんが出てきて言いました。
「それは、お気の毒に。こんなところでよかったら、さあどうぞ」
おばあさんはお坊さんをいろりのふちに座らせると、おわんにお湯を入れて出しました。
「はずかしながら、食べる物もなくてのう。せめて、このお湯でも飲んでくだされ。体が、温まりますから」
お坊さんは両手でおわんをかかえるようにして、お湯を飲みました。
冷えきった体が、どんどん温まってきます。
「ありがとう。まるで、生き返ったようだ」
お坊さんが礼を言うと、おばあさんは申し訳なさそうに頭を下げました。
「明日の朝はきっと、何か作りますから」
するとお坊さんは、ふところからお米を三粒出して言いました。
「すまんが、これでおかゆを煮てくれ」
「へええ、これでおかゆを・・・」
おばあさんはビックリしましたが、言われたようになべに三粒のお米を入れてぐつぐつと煮込みました。
すると、どうでしょう。
なべの中から、たちまちおいしいおかゆがあふれ出たのです。
「さあ、おばあさんも一緒に食ベなされ」
そのおかゆの、おいしい事。
こんなにおいしいおかゆを食べたのは、生まれてはじめてです
「ありがたや、ありがたや」
おばあさんは、涙を流して喜びました。
「おいしいおかゆを、ありがとうございました。きたないふとんですが、ここでやすんでください」
おばあさんは自分のふとんにお坊さんを寝かせて、自分はわらの中で寝ました。
次の朝早く、お坊さんは、おばあさんを起こさないように起き出すと、ふところからまたお米を三粒出して、空っぽの米びつの中ヘ入れました。
「おばあさん、いつまでも元気でいておくれ」
お坊さんがそう言って家を出ようとしたら、おばあさんがあわてて起きてきて言いました。
「お坊さん、待ってください。今から、イモの葉っぱで汁をつくりますから」
「ありがとう。でもわたしは、もう出かけなくてはいけない。あとで、米びつを開けてみなさい」
お坊さんはそう言うと、おばあさんの家を出ていきました。
「お坊さん、また来てください」
おばあさんは去っていくお坊さんに向かって、そっと手を合わせました。
「そう言えば、米びつを開けろと言っていたが」
家に入ったおばあさんが米びつを開けてみると、空っぽのはずの米びつに、お米がびっしり入っているではありませんか。
そしてそのお米は不思議なことに、毎日食べても少しもなくならないのです。
おばあさんはこのお米のおかげで、いつまでも元気に暮らしたということです。