この村では冬になると家は屋根まで雪にうまってしまうので、村人たちは家と家の間に雪のトンネルをつくって、そこにふしをとった長い竹筒をさしこんで電話のように使います。
ある冬に、一軒の家でおだんごを作りました。
とてもおいしいおだんごだったので、家の人はとなりの家にもごちそうしてやろうと思い、竹筒に口をあてて言いました。
「もしもし、おだんごを作りましたので、食べに来てください」
ところが、いくら待っても返事がありません。
「なんだい。せっかくごちそうしてやろうと思ったのに」
おだんごを作った家の人は腹を立てて、おだんごを全部食べてしまいました。
やがて長い冬が終わって、雪がとける季節になりました。
すると竹筒の中から、
「もしもし、おだんごを作りましたので、食べに来てください」
と、声が聞こえてきました。
それを聞いたとなりの家の人は、大喜びで行きました。
「こんにちは、おだんごを食べに来ました」
すると、その家の人は変な顔をして、
「今頃来て、何を言っているのです」
と、言うのです。
「今頃? いや、さっきあなたは『おだんごを作りましたので、食べに来てください』と、言ったでしょう?」
「はい、確かに言いましたが、でもそれは去年の事です。その時は返事もしないで、今頃来てもねえ」
「去年なんて、とんでもない。わたしが聞いたのは、今さっきですよ」
「いいえ、去年です!」
「いいや、今さっきだ!」
とうとう二人は、けんかをはじめました。
するとそこへ、近所のお年寄りがやって来ました。
「まあまあ、どっちも落ち着いて。ところであなたたちは、何を言い合っているのです?」
そこで二人がわけを話すと、お年寄りは大笑いしました。
「あははははは。なんだ、そんな事ですか。この冬は特別に寒かったから、声が竹筒の中でこおりついてしまったのですよ」
「それなら、どうして今頃聞こえて来るのですか?」
「決まってるじゃないか。あったかくなったので、こおりついた声がとけたんだ」
「なるほど」
けんかをしていた二人は、やっとなっとくしました。
「そうとは知らないで、腹を立ててすみませんでした」
「いえいえ、こちらこそすみませんでした」
そこでもう一度おだんごを作ると、あらためてとなりの家の人にごちそうしたそうです。