木こりは木を切って炭を焼き、おかみさんは糸車を回して糸をつむいで暮らしていました。
さて、木こりが仕事でいない昼間、タヌキが時々やって来て食ベ物を食い散らす様になりました。
それで夫婦は、なベやおひつに大きな石を乗せて、タヌキに食べられない様しました。
それでもタヌキは夜になるとやって来ては、家の前でポンポコと腹つづみを打ったり、踊ったりして騒ぎます。
夜に寝られなくなった木こりは腹を立てて言いました。
「今に見ておれ。ワナを仕掛けて捕まえてやる!」
それから数日後、月のきれいな晩におかみさんが糸車を回していると、しょうじの破れ目からタヌキの黒い目玉がクルクルと動いているのが見えました。
そしてタヌキはおかみさんの真似をして、糸車を回すかっこうをしました。
「あら。可愛いタヌキだこと」
タヌキは、おかみさんをとても喜ばせました。
そして、さらに数日後のある晩の事。
「ギャンギャン!」
裏山で、タヌキの泣き声がしました。
おかみさんが見に行くと、あのタヌキがワナにかかって木からぶら下がっています。
「可愛そうに。うちの人が仕掛けたワナにかかったのね」
おかみさんは、そっとワナを取ってやりました。
「気をつけないと、うちの人にタヌキ汁にされてしまうよ」
助けられたタヌキは何度も頭を下げ、何度も振り返りながら森の中へ帰って行きました。
冬が来て寒さが強くなると、木こり夫婦はふもとに下りて小さい家で暮らします。
おかみさんは山の方を見ては、
(あのタヌキ、どうしているのかしら?)
と、時々タヌキを思い出していました。
さて春が来て、夫婦はまた山の家へ戻って来ました。
家に入ったおかみさんは、
「あっ!」
と、驚きました。
ほこりだらけになっているはずの糸車がピカピカに磨かれていて、その横には真っ白な糸が山の様に積まれているのです。
「不思議な事」
おかみさんが、ボーッと見ていると、
「さあさあ、いつまでもつっ立っていないで、家の掃除をしろ」
木こりはそう言うと、炭焼きがまを見に出て行きました。
掃除をすませたおかみさんが、かまどでご飯を炊いていると、
キイカラ、キイカラ
と、糸車の回る音がしてきました。
「おやっ?」
そうっと座敷の方を見たおかみさんは、息をのみました。
「タヌキだ」
いつの間にやって来たのか、タヌキが上手に糸車を回して糸をつむいでいたのです。
キイカラ、キイカラ
キイカラ、キイカラ
おかみさんは声も立てずに、見とれていました。
タヌキは一通り巻き終わると糸をはずして、いつもおかみさんがしていた通りに糸をきれいにまとめて積み重ねます。
そしてタヌキは満足そうな顔をして、あたりを見回しました。
その目がおかみさんの目と合うと、タヌキはうれしそうにおじぎをして森へ帰って行きました。
「タヌキよ、ありがとう。お前のおかげで、今年は楽が出来るわ」
おかみさんは恩返しをしてくれたタヌキを、いつまでもいつまでも見送りました。