ある冬の晩の事。
和尚さんが『でんがくどうふ(とうふを長方形に切って串に刺し、味噌を塗って火にあぶった料理)』を二十串、いろりにグルリと並べて刺しました。
「おおっ、良い香りじゃ。さあ、焼けてきたぞ」
とうふに塗りつけた味噌がこんがりと焼けて、たまらなくいい匂いです。
するとそこへ、匂いをかぎつけた二人の小僧がやって来ました。
和尚さんは、『でんがくどうふ』を一人で全部食べるつもりでしたが、二人の小僧にしっかりと見られてしまったからに、今さら隠すわけにはいきません。
そこで和尚さんは、こう言いました。
「ちょうど、良いところに来たな。
お前たちにも分けてやるが、ただ分けてやったのではつまらん。
そこで串の数をよみ込んだ歌を作り合って、その数だけ食べる事にしよう。
では、わしから始めるぞ。
『小僧二人、にくし(二串)』」
和尚さんはニヤリと笑うと、『でんがくどうふ』をふた串取って食べました。
歌の意味は、『小僧が来なかったら一人で全部食べられたのに、二人の小僧が憎い』という意味です。
「お前たちには、こんな歌はよめまい」
ところが、年下の小僧が、
「それはどうでしょう。『おしゃかさまの前の、やくし(八串)さま』」
と、見事な歌をうたって、『でんがくどうふ』を八串もせしめたのです。
歌の意味は、病気を治す神さまの薬師如来(やくしにょらい)のやくしと、八串をひっかけたのです。
「何と、なかなかやりおるわ」
あてがはずれた和尚さんは、しぶい顔をしました。
でも、まだ十串も残っています。
まさか、これを全部取られる事はあるまいと、和尚さんは安心して年上の小僧に歌をよませました。
すると年上の小僧は、
「『小僧よければ、和尚とくし(十串)』で、十串いただきます」
と、残りの十串を全部取ってしまったのです。
ちなみに歌の意味は、『出来の良い小僧がいれば、和尚さんは得をする』というものです。
こうしてほとんどの『でんがくどうふ』を取られた和尚さんは、もう二度と歌よみ勝負をしなかったそうです。