お姉さんの方は色白できれいな顔をしているのに、妹の方は色黒でちっともきれいではありません。
だからお母さんは、色白できれいな顔のお姉さんばかりを可愛がっていました。
ある日の事、二人が一緒に道を歩いていると、向こうから馬に乗った男の人がやって来て尋ねました。
「この村のお宮へ行きたいのですが、どっちへ行けばいいのでしょうか?」
この男の人はひげだらけの顔をしていて、汚れた着物を着ていました。
(なんて汚いんでしょう。こんな人とは、口をきくのもいやだわ)
そう思ったお姉さんは、聞こえないふりをしました。
でも、親切な妹は、
「それでは、わたしが案内してあげましょう」
と、村はずれにあるお宮さんまで、男の人を連れて行ってあげたのです。
二人がお宮の前まで来ると、男の人はふところから白いおうぎを出して言いました。
「わたしは人間の姿をしているが、本当は山の神じゃ。お前はまことに親切な娘。お礼にこのおうぎであおいでやろう」
山の神さまが、白いおうぎで娘をあおぐとどうでしょう。
色黒だった娘の顔が、みるみる色白できれいになったのです。
「よい顔じゃ。お前のうつくしい心には、その顔が似合っておる。
・・・それにしても、お前の姉さんはひどい娘じゃ。
わしの汚いかっこうを見て、口をきこうともしなかった。
いくら色白できれいな顔をしておっても、心はまっ黒だな」
そう言って、山の神さまはお宮の中へ消えて行きました。
さて、妹が戻ってくると、お姉さんは目を丸くして驚きました。
色が黒くてみっともない顔の妹が、見ちがえるほどきれいになっていたのです。
「どうして、そんなにきれいになったの?」
美しさで負けたお姉さんは、くやしくてたまりません。
そこで妹からわけを聞き出すと、すぐにお宮さんへ飛んで行きました。
「山の神さま、お願いです。どうかわたしも、おうぎであおいでください」
するとお宮の中から、山の神さまが出てきて言いました。
「そんなにあおいでほしけりゃ、のぞみ通りにあおいでやろう」
山の神さまはふところから黒いおうぎを取り出すと、お姉さんの顔をあおぎました。
すると色白で美しかったお姉さんの顔はみるみる黒くなり、とてもひどい顔になったのです。
でも、それを知らないお姉さんは、大喜びで妹のところへもどってきました。
「どう、わたし、すごくきれいになったでしょう?」
「・・・・・・」
妹は何も言えなくて、首を横にふりました。
「えっ?」
お姉さんはあわてて近くにある池に行くと、水面に自分の顔をうつしてみました。
するとそこにうつっているのは、色黒のみにくい顔だったのです。
「どうしよう、どうしよう」
お姉さんはすぐにお宮へ行って、元の顔にもどしてくれるように頼みました。
でもどこへ消えたのか、山の神さまは二度と姿を現しませんでした。
さて、妹はそれからもますますきれいになって、その国のお殿さまの奥方になり、いつまでも幸せに暮らしました。
しかしお姉さんの方は、一生、色黒でみにくい顔だったそうです。