ある夏の事、年頃になった娘が留守番をしていると、汚い身なりの旅のお坊さんがやってきて家の前で物乞いをしました。
「旅の僧です。空腹で、困っております。何か食べ物を」
「あっ、はい。ではこれを」
娘が食べ物を渡すと、お坊さんは娘の顔を見ながら言いました。
「美しい娘さんじゃな。いくつになられた?」
「はい。十八です」
「十八か。・・・お気の毒に」
お坊さんは、なぜか悲しそうに言うと、そのまま立ち去っていきました。
この様子を、畑仕事から帰ってきた父親が見ていました。
気になった父親はお坊さんを追いかけると、お坊さんに理由を聞きました。
するとお坊さんは、
「娘さんはまだ若いのに、もうすぐ急な病で亡くなります。それがお気の毒で」
と、いうのでした。
「娘が病で! どっ、どうしてわかるのです! もしそれが娘のさだめなら、どうすれば逃れる事が出来るかお教えください!」
父親がとりすがるように言うと、お坊さんはこう言いました。
「白酒と杯を三つ、目隠しした娘さんに持たせて、日の出とともに東の山に向かって歩くように言うのです。
どこまでも歩いてもう進めなくなったら、目隠しをとりなさい。
すると岩の上に三人のお坊さんが座っているから、何もいわずにどんどんお酒を飲ませなさい。
お酒がなくなったら、三人のお坊さんに命ごいをしなさい。
うまくいけば、娘さんは長生き出来るでしょう」
「ありがとうございました。さっそく、その通りにいたします」
次の日、父親は教えられた通り娘にお酒を持たせて、目隠しをしました。
そして日の出とともに、家から東の山に向かって歩かせました。
娘がどんどん歩いていくと、やがて行き止まりになりました。
娘が目隠しを取ると、そこは岩穴の中でした。
目の前の一段高い岩の上に、赤い衣を着た三人のお坊さんが座っています。
娘はお坊さんたちにどんどんお酒をすすめ、お酒がなくなるとお坊さんたちに言いました。
「わたしは、お願いがあってまいりました。
旅のお坊さまの話によると、わたしはもうすぐ急な病で死ぬそうです。
どうか、お助けくださいませ」
娘が深く頭をさげて命ごいをすると、三人のお坊さんは赤くなった顔を見合わせました。
やがて、一人のお坊さんが言いました。
「人の寿命を知り、あんたをここに連れてくるとは、あの大師の仕業か。
本当は人の運命を変えてはいけないのだが、こんなにごちそうになってはことわれんな」
続いて二人目のお坊さんが、持っていた帳面を見ながら言いました。
「なるほど。確かにあと三日の寿命じゃな。まだ十八だというのに」
三人目のお坊さんが、娘にたずねました。
「あんたは、何才まで生きたいんじゃ?」
娘は少し考えて、答えました。
「はい。子宝に恵まれて、その子を大きく出来るまでは」
それを聞いたお坊さんたちは、にっこり笑うと言いました。
「うむ。よい答えじゃ。あんたの寿命に、八の字をくわえてやろう」
そいてお坊さんたちは帳面に八の字を書きくわえて、娘の寿命を八十八にしたのです。
その後、娘は幸せな結婚をして子宝にも恵まれ、大した病気も無く八十八才まで長生きをしたという事です。